【こんにちは!あかちゃん 第6部】高度生殖医療は今<2>代理出産 リスク考えて

 ■卵子提供・代理母出産情報センター(東京)代表 鷲見 侑紀さん 
 皇居に近い都内の高層マンション。差し込む陽光を背に「大したことはしておりません」と語る。その柔らかい口調は、30年前から米国で卵子提供と代理出産を手掛けてきたパイオニアのイメージとは遠かった。

 20代前半で、留学先の英国でファッション関係の会社を設立。社長として世界を飛び回っていたころ、病気で子宮を摘出した友人の嘆きを聞いた。「子どもが欲しくても産めない…」。それがきっかけだった。

 たまたま、米国の代理出産事情を伝えるテレビ番組を目にする。出演していた男性に、どうしても会いたくなった。世界初の代理母契約書を作成した米国人弁護士だった。翌日、国際電話をすると「すぐに来なさい」。3日後、シカゴのオフィスで面会した。

 「日本人からも依頼がたくさん来る。日本での窓口になってくれないか」。悩んだ末に会社を畳み、不妊治療の仲介業務に専念する。これまでにあっせんして代理出産で生まれた赤ちゃんは150人、卵子提供では約500人を数える。

 「子どもが産めない女性を絶望から救いたい」。やりがいはあったが、苦労も多かった。

 米国での代理出産にかかる費用は、直近では1回当たり最低2千万円。渡航費やホテル代は含まれない。身代わりに分娩(ぶんべん)する米国人女性への報酬は200万~300万円。残りの大半は医療機関への支払いで、自身に入るのは70万円だ。

 ただ、出産しても未熟児や病気を伴うと医療費がかさむ。公的医療保険のない米国では、例えば保育器で経過観察するだけで1日30万円。心疾患のある新生児をドクターヘリで転院させた際には、総額6千万円の請求書を送りつけられた。

 「話が違う」「詐欺じゃないか」。依頼人から罵声を浴びせられることも珍しくなかった。米国の医療機関と掛け合って値切っても礼の一つもない。依頼人と連絡が取れず、借金取りのように集金に走り回った。

 「念願の赤ちゃんを授かって喜ぶ夫婦の笑顔を見るのは心からうれしかった。でも、それ以上につらかった思いの方が強い」。今、仲介業務を中止している。

 費用が高額でも、精神的負担が大きくても、海外で卵子提供を受けたり、代理出産したりする夫婦は後を絶たない。事実上、国内での道が絶たれているからだ。

 だからこそ、そうした夫婦に寄り添ってきたつもりだった。それでも今は「妊娠・出産できない運命を受け入れる覚悟も必要」と思うようになった。代理出産は他人の母体を危険にさらす。国内法では生まれた子の親は代理母になってしまう。リスクは小さくない。

 「命は本来、自然に授かるものだと思う。それなのに人間が操作することにどっぷり漬かってしまった。血のつながりだけが親子じゃない。不妊に悩む夫婦はもっと養子縁組を考えるようになってもいいのではないでしょうか」

 生殖医療の最前線と人間模様を目の当たりにしてきたからこそ、そう実感する。

    ×      ×

 ▼すみ・ゆき 東京都出身。18歳で英国に留学。1991年に有限会社として「卵子提供・代理母出産情報センター」を設立。タレントの向井亜紀さん夫妻の代理出産も仲介した。

    ×      ×

 ■日本の代理出産事情

 2001年、諏訪マタニティークリニック(長野県下諏訪町)の根津八紘院長が実施したことを国内で初めて公表した。この時は、子宮切除の手術を受けて妊娠できなくなった30代女性のために、女性の実妹が代理出産。女性の卵子を採取し、夫の精子と体外受精させた受精卵を妹の子宮に移して妊娠させた。

 代理出産を規制する法律はない。ただ、厚生労働省の生殖補助医療部会の03年報告書では禁止とした。日本産科婦人科学会も同年に禁止を打ち出している。また、法務相と厚労相が生殖医療についての検討を依頼した日本学術会議も、08年に「法律で禁止する」との報告書をまとめたが、法制化は見送られ続けている。


=2013/06/18付 西日本新聞朝刊=

PR

PR

注目のテーマ