【こんにちは!あかちゃん 第6部】高度生殖医療は今<4>チーム医療 先駆け導入

院長蔵本武志さん 拡大

院長蔵本武志さん

培養室長<br />

 ●蔵本ウイメンズクリニック(福岡市) 院長 蔵本武志さん 培養室長 江頭昭義さん
 
 入院ベッドのない診療所だが、スタッフは常勤だけで53人。体外受精コーディネーター、心理の専門家、胚培養士…。より安全で効果的な方法を探るため、牛の卵子を使った実験に取り組む獣医師もいる。

 蔵本武志さんは1995年、JR博多駅(福岡市)そばに蔵本ウイメンズクリニックを開業して以来、この集団を築き、率いてきた。先駆けて導入してきた「チーム医療」は最高の医療を提供するためにほかならない。

 かつては大病院の産婦人科で勤務医として働いていた。そこでは妊婦と不妊患者が同じ待合室だった。傷口をえぐられる思いをさせていたに違いない。専門施設の必要性を痛感した。

 その後、90年に不妊治療の先進地オーストラリアに研修留学する。米国や英国の専門施設でも研修を重ねた。当時の日本の不妊治療は、医師に臨床検査技師が加わる程度だったが、海外の先進施設は違った。チーム医療が当たり前だった。

 医師が何でもするのではなく、心理面の支援や顕微授精など高度な技術が必要な分野は各専門家に任せた方がいい。「それが患者にとってプラスになる」。「チーム蔵本」の根底にある理念であり、メンバー同士の意思疎通も欠かさない。

 その姿勢は年を重ねるごとに磨かれてきた。先日も院内のホールに医師、看護師、胚培養士ら約30人が集まった。一人の難治性患者のために治療法を探る会議だ。体の状態や生活習慣に関する発言が相次ぐ。多角的に検討した結果、次回試みる体外受精の内容を決めた。

 通常は医師1人と専門職の計8人程度で対応しているが、一人一人異なる患者の状態に合わせて、チームの輪を自在に大きくする。「大勢で話し合うと良い考えが出ますから」。患者を孤立させない-不妊治療の第一歩である。

 顕微鏡をのぞきながら、左手で卵子を固定し、右手で幅6マイクロメートル(千分の6ミリ)の微細な針を刺して精子を直接注入する。江頭昭義さんはその繊細な指先の動きで、99年から「チーム蔵本」を支えてきた。

 顕微授精を担う胚培養士(エンブリオロジスト)。形が良い元気な精子を選別し、受精しやすい卵子をピックアップ。顕微授精の後も、受精卵に培養液を加えながら細胞分裂を促し、胚盤胞に成長した受精卵を子宮に戻すまで大切に育てていく-。高度生殖医療では重要な役割を担っている。

 だが、その存在を患者が知ることは少ない。それでも、選ぶ精子、授精のタイミング、どの胚を移植するか…。「自分たちの技術一つで子どもを授けることができるんです。鍛錬に尽きます」。縁の下で支えるプライドがにじむ。

 顕微授精と胚培養の技術は、家畜の繁殖技術と何ら変わらない。自身も鹿児島大学農学部の大学院生時代には、良質な肉の牛や豚を効率的に生産するための顕微授精に明け暮れた。

 胚培養士の道を選ぶ際には「人にも動物と同じことをやっていいのか」と悩みもした。体の外で精子や卵子を操作する高度生殖医療に対して「動物実験と同じなのか」という世間の抵抗感は根強かった。だからこそ、胚培養士が表に出ることがなかったのだ。

 ところが、女性の高齢出産に伴う不妊症が増加するにつれて、高度な顕微授精に対するニーズも注目度もアップ。胚培養士の技術向上こそが不妊を救う道だと認識されるようになった。

 最近は診察にも立ち会うようになった。専門の立場から、排卵の誘発法や胚移植のタイミングなど医師の治療方針に助言する。「患者さんが喜ぶ顔を見たい。今はそれだけ。だから絶対に妥協しない」。研さんの日々が続く。

    ×      ×

 ▼くらもと・たけし 1952年生まれ。久留米大医学部卒。山口大大学院博士課程修了。日本生殖医学会認定生殖医療専門医。

 ▼えがしら・あきよし 顕微授精を行う胚培養士9人を束ねる培養室長。1969年生まれ、長崎市出身。鹿児島大農学部大学院卒。


=2013/06/20付 西日本新聞朝刊=

PR

PR

注目のテーマ