【こんにちは!あかちゃん 第6部】高度生殖医療は今<5>豊かな経験で寄り添い

看護師長村上貴美子さん 拡大

看護師長村上貴美子さん

メンタルカウンセラー伊藤弥生さん

 ●蔵本ウイメンズクリニック(福岡市) 看護師長 村上貴美子さん メンタルカウンセラー 伊藤弥生さん
 
 5月下旬、蔵本ウイメンズクリニック(福岡市博多区)で開かれた高度生殖医療説明会。村上貴美子さんが看護師長として説明に立つ。「体外受精は時間的、経済的、精神的に大変な治療。続けるには忍耐力が必要です」。柔らかい口調とは裏腹の内容に緊張感が広がった。

 がんなど治療しなければ死に直面する病と異なり、不妊治療は患者側の意思が反映される部分が大きい。「続ける限り、確率はゼロではないけれど、100%でもありません。治療の内容や妊娠率を理解し、どの治療をどれだけ続けるか、夫婦でしっかり話し合ってください」。あえて覚悟を促すような言い方をするのには、理由がある。

 看護師長とは別に、もう一つ肩書を持つ。体外受精コーディネーター。1999年、日本不妊カウンセリング学会認定の第1号である。心のケアやインフォームドコンセント(十分な説明と同意)など医師と患者の橋渡し役を担う。担当した患者は1万人を超える。

 結果が得られない焦り、周囲からの重圧…。夫婦の心は揺れ動く。それだけに、ケアには豊かな経験と知識が求められる。だが、国内で体外受精コーディネーターは未知の分野だった。

 どうすれば支えになれるか。「自分の知識、技術、人間性を磨くしかない」。仕事の傍ら、大学で心理学を学んだ。先進地の米国や英国の病院で数週間の研修も受けた。学会には国内外どこへでも顔を出す。自力で道を切り開いてきた。

 日進月歩の生殖医療とはいえ、成功率は決して高くない。晩婚化や高齢出産でその傾向は強まる。だからこそ言いたい。「不妊治療はご夫婦のこれからの人生の一部。子どもができてもできなくても、二人で取り組んだ経験は価値があります」。数々の笑顔と涙に寄り添ってきた結論だ。

 蔵本ウイメンズクリニックには、暖色系の明かりがともる小部屋がある。壁には絵が飾られ、落ち着いた雰囲気。伊藤弥生さんはここで週1回、非常勤のメンタルカウンセラーを務める。臨床心理士として患者の悩みを受け止め、心の健康を支えてきた。

 相談場面の一例-。ゆったりできる椅子に座ったA子さんに、丸テーブルをはさんで向かい合う。話を聞くと、治療が長引き、費用がかさんでいるという。専業主婦で節約にいそしむタイプ。「おしゃれなお店でコーヒーを飲むのがささやかな楽しみなのに、今は我慢していて…」

 じっと耳を傾け、ひとしきり話が終わったところで言葉を掛ける。「楽しい気持ちになるのも治療の一つと思ったらいかがですか。これまで通り楽しむのも、いいですよねぇ」。A子さんに笑みが浮かんだ-。

 97年から勤務している。九州大学で同時期に学んだ村上さんに誘われて見学したのがきっかけだった。生殖医療にはメンタルカウンセラーが必要と考える蔵本武志院長からチーム医療の一員にと誘われた。

 相談時間は初回が90分、2回目以降は50分。これまでに約500人の心の葛藤を受け止めてきた。

 基本は傾聴。「早合点せず、患者さんがどう感じ、何に苦しんでいるかを把握することが大切です」。その上で必要と判断したら具体的にアドバイスする。A子さんのように、治療のつらさに我慢が重なると、心が縮こまりうつ状態になる人もいる。不妊治療を「ゴールの見えないマラソン」に例える。

 (1)努力しても結果が出ないことへの戸惑い(2)妊娠への期待が一転して落胆に変わる「感情のジェットコースター」(3)妊娠というゴールが分からないつらさ-。こうした心理をわきまえ、寄り添っていく。マラソンにどこまでも伴走する。

 ▼むらかみ・きみこ 1966年生まれ、山口県下関市出身。日本不妊カウンセリング学会学術集会初代会長。不妊症看護認定看護師(日本看護協会)。

 ▼いとう・やよい 一橋大社会学部を1996年に卒業し、九州大大学院博士課程修了。本務は九州産業大国際文化学部臨床心理学科准教授(心理臨床学)。


=2013/06/21付 西日本新聞朝刊=

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