乳がん予防切除導入 相良病院理事長に聞く 発症のリスクや不安減 デメリットを考慮して

相良吉昭理事長 拡大

相良吉昭理事長

相良病院が今月13日に開いた倫理委員会。切除が本人にとって有益かどうか、個別の倫理委で見極めた上で実施することを条件に予防切除手術の導入を承認した

 遺伝性乳がん・卵巣がんを発症する前に、健康な乳房や卵巣を取り除く予防切除手術。米国人女優アンジェリーナ・ジョリーさんが受けて関心が集まる中、鹿児島市の相良病院(相良吉昭理事長)が九州で初めて導入を決めた。国内では抵抗感が根強く、同様の態勢を整えた病院は東京の聖路加国際病院など全国でも限られている。なぜ今、踏み切ったのか。相良理事長(43)に理由や背景を聞いた。

 -切除のメリットは。

 「まず発症リスクを大幅に減らせる。それに『いつ発症するか』『家族を残して死ねない』といった不安から解放される。遺伝子変異がある人は、がんを発症すると、片方にいくつもできたり、両方にできたりする。乳房温存手術を受けても変形したり、化学療法も大変だったりもする。そうした心配もなくなる」

 -デメリットは。

 「乳房を取れば授乳はできない。卵巣を取れば子どもは産めない。さらに20代で卵巣を取ると、ホルモンバランスが崩れて老化が早まるので、抑えるために服薬が必要だ。その人の年齢や人生観、収入と照らし合わせて、より良い選択を一緒に考えたい。病院が予防切除に誘導するようなことはしない」

 -費用は?

 「保険が適用されないため、片方の切除で約50万円、両方で約75万円かかる。後に再建を考えている人は、切除と同時に皮膚組織を伸ばす器具を入れるので、さらに20万~35万円が必要だ。遺伝子検査から再建までトータルで数百万円かかると考えておきたい」

 -アンジェリーナ・ジョリーさんの影響もあって、遺伝子検査を受ける人が増えそうだ。

 「検査は自分だけでなく、子どもやきょうだい、おい、めいなど大勢に影響を及ぼす。過去に検査を受けて陽性だった女性は、きょうだいから『検査してほしくなかった。結婚できなくなる』と反発された。自分も遺伝子変異を持っている可能性、そしてそこにつながる子孫も持つ可能性を突き付けられたからだ。それだけ問題は根深い」

 「米国には遺伝情報差別禁止法があるが、日本はない。日本では結婚や出産、保険加入の際などに差別を受けないとも限らない。こうしたことも考えて、私たちは家族や親戚も含めて説明を尽くした上で検査を行いたい」

 -予防切除に慎重な医師は九州にも少なくない。

 「乳房は女性にとって特別なもの。健康なのに傷つけるのはどうかという気持ちはよく分かる。一方で、つらい手術や抗がん剤治療を繰り返して形が変わってしまう恐れがあるなら、あらかじめ切除してきれいに再建したい、という人もいる。それぞれ価値観や置かれた状況は違うので、できるだけ多くの選択肢を用意したい」

 ●遺伝性5~10%、検診重要

 遺伝性乳がん・卵巣がん症候群は、がんを抑制する遺伝子「BRCA1」「BRCA2」に生まれつき変異があるために起こる。日本乳癌(がん)学会によると、海外のデータでは、いずれかに変異があると、一生のうちに乳がんになる確率は65~74%、卵巣がんになる確率は12~46%とされる。

 米国ではがん検診が高額なこともあり、遺伝子検査で陽性となった人の3分の1が予防切除を受けたとの報告がある。日本の場合、遺伝子検査さえ受けられる施設は少ない。検査の前に専門家による遺伝カウンセリングを受ける必要があるが、態勢が整った病院は、九州では相良病院など10カ所に満たない。全国ではこれまでに83カ所で約1600人が検査を受けた。

 ただ、遺伝性乳がんは乳がん全体の5~10%にすぎず、大多数の人は定期的な検診で早期発見に努めるしかない。だが、日本の乳がん検診率(40~69歳の女性が過去1年間に受けた割合)は、2010年で30・6%と先進国では最低レベルにとどまる。

 九州がんセンター(福岡市)の大野真司・臨床腫瘍研究部長は「日本では16人に1人が乳がんになっているが、近い将来には欧米並みの8人に1人になるといわれる。誰もがかかる可能性があり、最低2年に1回は検診を受けて」と呼び掛けている。

=2013/06/28付 西日本新聞朝刊=

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