学術月刊誌 創刊60年 スタートは九大研究者の呼びかけ 教育と医学、複眼の視点

721号となる「教育と医学」7月号を手に、活動の歩みを振り返る「教育と医学の会」の望田研吾会長 拡大

721号となる「教育と医学」7月号を手に、活動の歩みを振り返る「教育と医学の会」の望田研吾会長

「よい子を育てる」をスローガンに発行された創刊号

■いじめや障害…重み増す活動 
 教育と医学の複眼の視点から、子どもたちの育ちと学びをどう支えるか-。戦後間もなく九州大学の教育、医学両学部の研究者有志が呼びかけ、発行を始めた学術月刊誌「教育と医学」が創刊60周年を迎えた。721号となる7月号には「これからの学校とは」などをテーマに、多分野からのリポートが掲載されている。いじめや不登校、発達障害などの問題がクローズアップされる中、その活動の歩みは重みを増す。

 雑誌を発行しているのは「教育と医学の会」。1953年、開設間もない教育学部(49年開設)と、医学部の小児科、精神科の研究者たちが集まって結成された。53年7月に発行された創刊号の目次には〈小学生の心理〉〈強い子弱い子〉〈学級編成の問題〉などのタイトルが並ぶ。

 昭和28年、戦後の混乱期とあって、主テーマは「健康教育」。巻頭言では、会の発起人を代表して当時の平塚益徳・教育学部教授が「真の健康人(人格体)をつくるための協同研究をおしすすめたい」とつづっている。

 60年代の特集テーマで目立つのが「カウンセリング」。子どもの心の問題に対応する専門家「スクールカウンセラー」が今では、各学校に配置されているが、当時はまだ聞き慣れない言葉だった。

 このテーマで当時、リポート執筆に当たった一人が、九大教育学部の成瀬悟策さん(89)=九大名誉教授。成瀬さんは、脳性まひの子どもたちの動作改善法(動作法)を考案し、実践を続けたことで知られる。

 成瀬さんは「今でいう不登校を、当時は『学校恐怖症』と呼んでいた。子離れできない親子関係などが背景にあるように思われた。カウンセリングの理論や実践を紹介したら、教育相談の対応に悩む関係者から反響があった」と話す。

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 テーマや執筆者の選考は、編集委員15人が毎月会合を開いて決め、全国各地の研究者たちに執筆を依頼する。編集作業は、趣旨に賛同した慶応義塾大学出版会が当初から担当している。1部720円で現在、8千部を発行している。

 教育をめぐる動きを振り返ると、70年代は家庭内暴力、校内暴力。80年代になると、いじめや不登校が深刻化し、「学級崩壊」という言葉も生まれる。90年代になると、子どもたちの発達障害についての研究も深まり、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)などの言葉も広まっていく。

 取り上げられたテーマを振り返ると、時代をやや先取りし、教育現場の世相を映し出している。とりわけ、治療、訓練、指導が求められる心身の障害児教育への考察、提言は息長い。

 2000年代に入ると、学校現場ではゆとり教育が完全実施される一方、学力低下論争が巻き起こり、脱ゆとりの新学習指導要領導入(11年~)に向けた動きも加速する。特集テーマにも、学校や教員、制度のあり方を問い直すリポートが目立ってくる。

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 最近では、東日本大震災を受けた〈子どもにとって必要な災害時・災害後のケア〉(11年11月)。今年5月には〈読み書きが苦手な子の理解と支援〉をテーマに「ディスレクシア」という医学用語を特集している。

 心身の「リハビリ(テーション)」の意味や必要性を同誌が特集したのは1970年代。やがて時代のキーワードになる言葉が、今もぽつりぽつりと登場しているのかもしれない。

 現在会長を務める望田研吾さん(66)=中村学園大学教授=は、比較教育学が専門。〈いじめ〉をテーマにした今年2月号では、学力上位で知られるフィンランドの対策プログラム(キバプログラム)など、各国の取り組みを紹介した。

 子どもたちの心が見えない時代といわれるだけに、心身両面からの研究、実践がより求められている。望田さんは「これからも時代のテーマを見定め、研究者ばかりでなく、教師や保護者たちの指導や暮らしにも役立つよう、より広く、分かりやすく伝えていきたい」と話している。

=2013/07/02付 西日本新聞朝刊=

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