【君(ペット)がいるから】<2>動物は飼い主の心の鏡

 最大震度7を記録した熊本地震。状況は刻一刻と変化しました。
 
 4月14日午後9時26分の前震。私は熊本市中央区の「竜之介動物病院」で診察中でした。未経験の立っていられないほどの長い揺れ。それでも、何事もなかったかのように、目の前の犬に聴診器を当てました。

 揺れから2、3分たったころでしょうか。身の危険を感じて外に出ている人たちが道にあふれていたので、私の病院の待合室に避難するよう誘導しました。そのとき、とても状態の悪い犬が運ばれてきました。外傷性の出血もひどい。地震で家具の下敷きになったといい、飼い主も激しく動揺していました。

 応急処置が終わり、後はその犬の生きようとする力次第だと見守っていると、また血だらけの犬が待っていました。割れたガラスの破片でけがしたようです。処置していると、今度は一刻を争う猫が運び込まれました。揺れに驚いて飛び出し、マンションの窓から転落したそうです。

 私は地震発生直後から動物と一緒に避難できる「同伴避難所」を開設しました。その一方で通常通り、24時間緊急対応の診療も続けました。診察室には地震によるパニックで道路に飛び出して交通事故に遭った猫、飼い主とはぐれた迷子の犬などが次々と運ばれてきました。外傷性出血のひどい動物もいます。

 待合室は、避難者と、動物の診療に来た人であふれ、まるで野戦病院でした。相次いで運ばれてくる動物の状態は、決して良くありません。それ以上に飼い主に大きな精神的ダメージと動揺が見られました。

 地震から日がたつと、過呼吸から熱中症を起こす犬、ストレスによる食欲不振や下痢になる猫、出産の時期だったためか保護された子猫も多く見られました。

 動物は自然の異変を敏感に察知する能力があるとされ、大地震に人間より大きな恐怖を感じていたのではないかと思います。そんな動物たちのために飼い主ができることは、まず自身が落ち着くことです。出血がひどく、状態が悪い動物がたくさん運ばれてくる一方、飼い主のパニックや不安感に連鎖して具合が悪くなっている動物も多く見受けられました。

 飼い主の精神状態が鏡に映るように動物に連鎖しているのです。これを私たちは「ミラー効果」と呼んでいます。ミラー効果はプラスに働くときもあれば、今回のようにマイナスに働くときもあります。私たちは、プラスの効果が出るように動物だけを診るのではなく、動物の向こう側にいる飼い主とも向き合わなければなりません。

 それは震災という状況でも同じ。飼い主と動物は共に支え合う存在で、その絆を守るのが私たち獣医師だとあらためて強く感じました。

(竜之介動物病院長、熊本市)


※この記事は2016/08/11付の西日本新聞朝刊(生活面)に掲載されました。

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