取り下げの波紋 長崎の教会群 世界遺産推薦<中>落胆 登録信じていたのに―

 長崎県南島原市で民宿を営む山口忠宗さん(65)の自宅には、火縄銃や刀、陣中旗が寂しそうに積まれていた。「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の今夏の世界文化遺産登録を見据えて、山口さんが発案した市民劇「南島原 世界遺産物語」で使う予定だった手作りの小道具だ。市内には構成資産の原城跡や日野江城跡が残る。だが登録は最短で2年後。晴れ舞台も持ち越された。

 劇は同市口之津町にイエズス会の巡察師が来航した16世紀後半からキリスト教の繁栄、島原の乱、世界遺産登録を喜ぶ市民の様子までを1時間にわたり伝える。山口さんが30ページの台本をつくり、官民組織が主催者になり出演者48人も集まっていた。今月には配役を決めるはずだった。出演者には天草四郎に適役な高校生もいた。山口さんは「市外に進学する人もいるだろう。2年後まで皆さんのモチベーションが維持されるか心配だ」と話す。

 世界遺産推薦取り下げを受け自治体も慌ただしい。江上天主堂などの構成資産がある五島市は2016年度当初予算で、教会のガイダンス施設整備費約1億1千万円の計上を見送る。黒島天主堂がある佐世保市も観光案内板やシンポジウムの経費を外し、県は長崎市での記念祝賀会を中止する。平戸市はパンフレットなどの見直し作業を進める。

 こうした中、佐世保市は黒島で初の観光拠点「黒島ウェルカムハウス(仮称)」を3月に予定通り開設する。担当者は「黒島の観光客受け入れ拠点として必須だ」と延期は考えなかった。「平戸の聖地と集落」として構成資産になっている中江ノ島周辺には、平戸観光協会が夏ごろをめどにクルーズ船の運航を始める。「登録に向けての準備期間として、前向きに捉えたい」。協会関係者は自らに言い聞かせるように話した。

 観光関連への影響も大きい。頭ケ島天主堂が立つ新上五島町の「五島列島リゾートホテル マルゲリータ」の運営会社は、12月開業予定だった町内の新設ホテルについて「着工時期を見極めたい」と計画変更を示唆する。九州商船(長崎市)は9月、長崎市と同町を結ぶ高速船の運航を始めるが、同社は「頭ケ島天主堂が構成資産に残ると信じたい」。離島の教会群を巡るツアーを先送りする見込みの県営バス観光(同)は「世界遺産という『響き』があるのとないのでは注目度が違う」。“登録特需”も先送りとなり、観光業界は戦略の練り直しを迫られている。

この記事は2016年02月10日付で、内容は当時のものです。

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