中国、他人の合格証書入手 成り済まし大学卒業 被害者 進学断念 出稼ぎ 「偽者」 教師の夢も“横取り”

 大学受験に失敗したと思っていたら、実は合格していて、別人が自分の名前で大学に通っていた-。中国河南省で、あっと驚く「成り済まし入学」被害が発覚し、話題になっている。父親が娘の入学のために別の受験生の合格証明書類を不正に入手。被害者が教師になる夢を諦めた一方、「偽者」は卒業後、教師になっていた。 (北京・相本康一)

 中国紙、京華時報などによると、被害に遭ったのは河南省洛陽市に住む30代女性、李さん(仮名)。

 発覚のきっかけは、銀行での審査だった。昨年5月、クレジットカード発行を申し込んだところ、申請書類に虚偽の記載があるとして拒否された。

 中国では、生年月日や身分証明番号、学歴などの記録が公安警察当局で一元管理され、金融機関が身分照会に利用している。行員は意外なことを言った。「あなたは短大卒のはずだ」

 李さんは2003年に地元の同省周口市の短大(3年制)を受験したが、合格通知は届かず、進学を断念して都市部に出稼ぎに行った。今は結婚し、広告会社で働きながら夫と子どもの3人で暮らす。書類には「高校卒」と記入していた。

 教育省の記録を確認して驚いた。自分と同じ名前、同じ身分証明番号の人間が03年9月に短大に入学し、06年7月に卒業していた。顔写真だけは別人。自分の偽者がいた-。

 ●改ざん

 教育や公安部門による合同調査チームの調べによると、偽者女性の父親が当時、地元の工場長を務めていた妻の兄に3千元(約5万円)を渡し、仲介を依頼。何らかのルートで李さんの合格証明書類を入手した。女性は李さんの名前で3年間過ごしたという。

 他人に成り済ますには、短大関係者だけでなく、記録を管理する公安当局や出身高校など多数の人間の協力が必要。実際に公安の記録は改ざんされており、「贈収賄や職権乱用の疑いがある」(調査チーム)。

 しかし、仲介した兄は05年に死亡。協力者が誰なのか判明しないまま、調査チームは今年3月、共産党規律処分条例などに基づき、監督責任を問う形で短大や地元公安当局の幹部、出身高校の教師ら計9人を処分したと発表。偽者女性は卒業資格を取り消され、教師を解任された。調査は続いているが、真相は解明されない可能性もある。

 ●モラル

 実は、同様の事件は貴州省でも表面化。他人に成り済まして大学に通った女性の父親が09年、国家機関証明書偽造罪で懲役2年の判決を言い渡された。「発覚していないケースがほかにもあるのでは」と中国メディア関係者。何としても大学に入れたいという親の強い学歴信仰を物語る。

 驚くのは、不正に関与したであろう人間の多さだ。「学校、警察、医療など公的な立場の人間の腐敗がひどすぎる。何でもカネ、カネだ」(北京の経営者男性)。習近平指導部の反腐敗運動は、急速な経済成長の陰で置き去りにされたモラルを取り戻す狙いもあるのだろう。

 李さんは、これまでの調査結果に満足していない。偽者女性の父親から「8万元(約140万円)で和解しよう」と持ち掛けられたが、断った。

 「出稼ぎ時代、学歴もなく人より努力するしかなかった。大学に通えていたら人生は違っただろう。夢だった英語教師になれたかもしれない」。李さんは中国紙の取材に語った。「今からでも大学に行きたい」

この記事は2016年04月06日付で、内容は当時のものです。

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