【忘れてませんか? 参院選 課題チェック】<2>農業 大規模化だけが良策か

山村の水田で稲の育ち具合を見る渡辺明人さん 拡大

山村の水田で稲の育ち具合を見る渡辺明人さん

 農業の将来像を語る際、「やる気のある農家」という表現を耳にする。正式な定義はないが、大規模で輸出も視野に入れるような企業的経営を取り入れた個人や経営体を指すようだ。では、その対極に位置する「やる気のない農家」とはどんな人々だろう。先祖から譲り受けた農地を毎年同じように耕し、効率化とほど遠い場所にいる小規模農家-といったところか。対極にあると思われる2人の農家に話を聞いた。

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 熊本県菊池市の名勝・菊池渓谷にほど近い山村で、渡辺明人さん(52)は妻と両親の4人で家族農業を営む。茶畑160アール、水田88アール、畑15アール、原木シイタケを手掛ける専業農家だ。

 集落には水田が約15ヘクタールあり、13戸の農家で耕作する。基盤整備で作業はしやすくなったとはいえ、水田の枚数は約100枚。生産効率からいえば、国が目指す国際競争力のある経営とは、ほど遠い環境にある。

 ところが、である。渡辺家はそれで十分食べているのだ。熊本市内と福岡都市圏の大学に通う娘2人に仕送りし、仕事と暮らしが混じり合った人間的な生活を送りながら。

 「私が目指すのは、できるだけ小さな経営。経費は少なくなるし、一つの作物に手間暇かける時間も増えるからです」

 大半の業種が売り上げ向上に血眼になる中、こんな経営が成り立つ理由の一つが、経営資源の多くを自給しているためだ。

 例えば、シイタケの菌を打ち込むクヌギ。自分で育てると、成木になるまで10~15年の間、山の下草刈りなど手入れが必要になる。そのため、クヌギの原木を業者から買う農家も少なくない。手入れに要する労力は軽減され、規模拡大も容易になるからだ。

 渡辺さんは違う。自分の山が「回せる」分だけ作る。

 「クヌギ山の目的は太か幹が欲しかけんですが、枝はたきぎとして使える。一切、無駄はなかとです」

 こんな調子で肥料も自給するから、買うのは農業機械など自分で作れないものだけ。有機農家なので農薬代もいらない。住宅は20年ほど前、自分の山の間伐材で建てた。

 「面白かことに、売り上げは伸びんでも所得率は上がる。出て行くお金が少ないから生活が安定するとです。選挙前だからか、口を開けば皆、景気回復と言いよるけど、あんまり景気の良しあしに左右されん方が安心して暮らせる社会やなかですかね」

 考えればそうだ。リーマン・ショック、ギリシャの金融危機…。海の向こうの失政に、懸命に働いてきた私たちの生活が翻弄(ほんろう)され、株価や為替の変動に一喜一憂する。安定や安心とは、ほど遠く感じられる。

 「限られた農地を分け合いながら使う。水田の4キロ先にある水路も、みんながいるから当番で維持管理ができる。こんな場所では小さな農家がたくさんおる方がよかし、地域社会としても安定しとると思います」

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 広々とした水田が広がる福岡県鞍手町。ここで50ヘクタールの水田を耕作する「遠藤農産」代表の遠藤典男さん(71)。福岡県内で最大規模の稲作農家である。

 「規模を拡大したからちゅうて、机の上の計算のごとコストが下がるわけやなかとばい。機械も大きかとがいるしな」

 中国にコメを輸出したこともあったが、今はやめた。

 「商習慣が違い過ぎる。富裕層が買うというけど、そんな層はごくわずか。行き詰まるのが見えとる所に寄りかかれんよ」

 「味もそう。日本のコメは一番ってはやしたてるけど、ベトナムだって日本の技術者が行って教えれば、どんなコメでも作れる。味も米飯改良剤とか入れて炊いたら、もう分からんよ」

 農業経営に企業が参入したらうまくいく-というのはどうだろう。

 「カイワレ大根とか工業的生産ができる作物ならまだしも、コメや麦など土地利用型農業は気候風土に左右される。目先の効率で原材料を輸入に依存した農業は、為替の変動で収支は一気に変わる。台風被害とか予期せぬことも起こる。自分たちはここの住人やから、何があってもこの地で踏ん張るけど、企業はそうはいかんやろ」

 収益が見込めなければ撤退する。良い悪いではない。それが企業の宿命だ。

 「存続するには大きい農家も小さい農家も、どっちもおらないかんのよ。食
料確保の点からも、それが一番安定すると思うよ」

 成長、変革、開国、輸出、自由競争、やる気のある農家…。政治家は短い言葉(ワンフレーズ)で語らなければ、国民にその主張が伝わらないとされる時代。だが、実相はそう単純ではない。逆に分かりやすさに惑わされて、誤ることも多いのではないか。

 渡辺さんは言う。

 「右肩上がりで成長せんといかんと考えるから、おかしくなるっちゃなかですか」

 何が本質か。その問題設定自体が正しいのか。じっくり見極めて1票を投じたい。

=2013/07/17付 西日本新聞朝刊=

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