【君(ペット)がいるから】<5>大震災教訓に建て替え

 熊本地震の際、動物と一緒に避難できるペット同伴避難所として開放した熊本市の「竜之介動物病院」。自家発電機、容量36トンの貯水タンク、ペットフード1カ月分の備蓄などがあります。2013年9月に完成した4階建てビルは「災害時も使えるよう、最大の震度にも耐える建物に」と建設しました。建て替えを決意したのは、東日本大震災の教訓があったからです。

 11年12月、私は福島、宮城両県を視察しました。出発前は行き場のない被災動物100匹を、熊本市に連れ帰るつもりでしたが、できませんでした。被災した犬や猫の多くは飼い主が分かっており、行き場がないわけではなかったからです。被災した飼い主たちは、いずれ家族みんなで暮らしたいと願い、ペットの所有権を放棄していませんでした。ただ、震災から9カ月たってなお、仮設住宅でも避難所でもペットと一緒に暮らせる望みはありません。

 行政や獣医師会などが運営する被災動物のシェルターを訪れました。そこで見たのは、飼い主の迎えをけなげに待ち続けるペットたちの姿。悲しげなまなざしに心が痛みました。飼い主の中には家や家族を失った人もいます。その上に、ペットとも離れ離れにならざるを得なかったという状況を目の当たりにし、やり場のない悲しみが伝わりました。動物の世話はボランティアが主に担っていました。人手が足りない中、飼い主を待つ動物たちを懸命にケアする姿に心を打たれました。

 ペットは家族の一員なのに、社会の一員として認められていなかった。だから、飼い主にもペットにも心の傷を残し、預かったペットを世話する人も苦悩している。東日本大震災の被災地の現実は、私にいろいろなことを教えてくれました。そして、もしもに備えた建物の建設に着手。それが今回、役立ったのです。

 熊本地震で痛感したこともあります。迷子のペットが数多く見られたこと。ペットは残念ながら人間の言葉を話せません。「おうちはどこ? お名前は?」。いくら問い掛けても答えられません。

 しかし、迷子札が代弁してくれます。迷子で心細く、悲しい思いをするのは動物だけでなく、飼い主も同じです。迷子札があれば、ペットは少しでも早く家に帰れます。ただ、迷子札は首輪と一緒に外れてしまうため、迷子札に加え、個体識別番号を記録したマイクロチップを体に埋め込んでほしいと思います。

 「うちの猫は外に出ない」「うちの犬は臆病で私のそばを離れない」と言う人がいます。熊本地震では一瞬で日常風景が一変しました。絶対はありません。迷子札とマイクロチップは、飼い主と動物の絆をつなぐ「住民票」です。

 (竜之介動物病院長、熊本市)

※この記事は2016/09/01付の西日本新聞朝刊(生活面)に掲載されました。

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