ともに自立へ 生活困窮者支援制度<4>家族離散 見放さずに孤立防ぐ―連載 佐賀県

 昨年12月、県内の公営団地。ベランダ側の窓は割れたガラスをテープでつなぎ合わせていた。カーテンはない。朝晩は冷え込むが、実加さん(46)=仮名=は暖房器具を使わず、万年床で生活している。10年前にうつ病を患い、家にこもる日々。風呂にはもう何日も入っていない。

 「家族で、食べ物に困らんで、普通に暮らしたい」。小学生の娘(10)は児童相談所に保護され、夫(56)は刑務所に服役中。自身も無免許運転の罰金30万円を払えず、2カ月間の労役場留置が決まっていた。

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 「助けて、借金取り立ての電話が怖い」。実加さんから県生活自立支援センターに電話があったのは昨年6月。相談支援員として担当になった松尾玲奈さん(29)は地元の役場に出向いたが、職員は「関わらない方がいいと思いますよ」と口をそろえ、社会福祉関係者からも「あそこは無理、やめたがよか」と一笑に付された。

 実加さんは義兄(71)も含めて4人暮らしだった。夫は定職に就かず、収入は自身の精神障害者年金約5万円と、義兄の賃金プラス年金の十数万円。毎月15日の年金支給日には唯一、足が向くという近所の居酒屋で一気に使った。光熱費や住民税の支払いは滞納を重ねた。

 自己破産も、生活保護を受けた時期もある。それでも自己管理できず、精神状態は悪化した。

 「保護のお金は出せません」。役場職員にたしなめられると「あんたらに人情はないんか」と言い返した。周囲に頼れなくなると、年金を担保に借金し、負債は約200万円になった。

 娘は不登校になり、見かねた学校が児童相談所に連絡。昨年春に保護された。

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 県生活自立支援センターが立てた計画では、夫の就職と浪費をなくす家計支援が予定された。

 ところが昨年8月、夫は詐欺容疑で逮捕。後払いで27万円分のガスこんろ3台を購入し、代金を払わないまま転売していた。使途不明だが、金は残っていない。11月に有罪判決を受けた。

 10月に義兄が体調不良で仕事を辞め、家計は破綻。義兄は12月から老人ホームに入所している。子ども部屋には今も娘が描いた絵、粘土細工などを飾っているが、娘との面会を果たせないまま、実加さんも今月20日に労役に入った。

 労役中は娘や夫と文通でやりとりしたいという。相談支援員の松尾さんは家の郵便受けを時々確認し、夫や娘から手紙が届いていたら届けると約束した。

 家族が一緒に暮らせる日はまだ遠い。支援だけでは変えられない現実もある。「せめて、社会で完全に孤立してしまうことを防げたら」と松尾さんは語る。

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 ●ワードBOX=自立相談支援

 生活困窮者自立支援制度の必須事業で、経済的に困っている人の担当になった相談支援員が福祉、医療、教育などの各機関と連携し、本人も含めた会議で計画を立て、問題の解決を図る。窓口をたらい回しにされることもなく「ワンストップ」対応と呼ばれる。本人とは自宅で面談することもある。短期間で自立が望めないケースは、本人が希望すれば見守りや助言を続け、状況の改善を目指す。

この記事は2016年01月23日付で、内容は当時のものです。

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