博多うどん いま熱い? 「なぜ関門海峡を越えなかったのか」 東京在住・榊さん出版

 「うどんにコシはいらない」。福岡市出身のタレント、タモリさんの言葉が象徴するように、軟らかい麺が特徴の「博多うどん」。四国出身で東京在住ながら、そのとりこになり、とうとう本まで出してしまった人がいる。タイトルは「博多うどんはなぜ関門海峡を越えなかったのか」(ぴあ社)。この長くて思わせぶりな題名の本が、じんわり話題だ。福岡市を訪れた、筆者で外食コンサルタントの榊真一郎さん(56)に話を聞いた。

■半日で6店巡る

 博多うどんのルーツは、忙しい博多商人がさっと食べられるようにゆで置きした軟らかい麺とされる。博多地区はもちろん、福岡県では今でも一般的に「軟らかいうどん」が好まれており、榊さんはこれを大きく「博多うどん」と捉えている。仕事で福岡を訪れるうちにファンになり、「その魅力を伝えたい」と、昨年12月に本を出した。

 執筆に際しては「博多うどんを見極めようと、昨夏、LCC(格安航空)で福岡を弾丸訪問して食べ歩きました」と榊さん。著書では「因幡うどん」や「かろのうろん」「うどん平」など老舗や人気店を、半日で6店も回った体験をつづり、各店のだしや麺の食感、トッピングなどを驚きや愛情を交えて記している。

 ぴあ社の編集部によると、同書は福岡のほか、東京でも売り上げを伸ばしており、既に増刷もされた。「ご当地はともかく、関東でも売れたのは正直意外でした。タイトルを見て『博多ラーメンならぬ博多うどんとは?』と関心を持った人も多いようです」と言う。

■1杯2千円以上

 「手間をかけて軟らかくした麺が、よく取れただしを吸い、喉越しも滑らか。消化が良く、いくらでも食べられる」。榊さんは、博多うどんを熱く語る。最もはまった「牧のうどん」を例に取れば「客単価600円ぐらい」で、コストパフォーマンスも魅力だという。

 さらに、本職は経営コンサルの榊さんは、博多うどんの店が今と変わらぬ味や品質を保ち、東京に進出した場合のシミュレーションも展開。「世界中のおいしい食べ物が食べられる東京で、おいしい博多うどんを食べられる機会があまりないのはなぜ?」との自らの疑問を解きほぐしていく。

 取材やリサーチで、材料や人件費、デリケートな味や品質を保持するためのコストなどを試算。その結果「1杯2千円以上でないと東京では経営が成り立たない」と結論づけ、一部例外はあるものの、博多うどんが「関門海峡を越えなかった」理由とした。

■50人アンケート

 榊さんは執筆前、知人を介して福岡在住の約50人に好きなうどん店に関するアンケートを取った。人気店を推す人も多いが、1票ずつの店も少なくなかった。

 「なじみの店を大事にする福岡の気質を感じました。ここで味わうから、その人情が感じられるのかもしれませんね」

 優しい味、手頃な値段、そして人の温かさ-。博多うどんの魅力は「関門海峡を越えない」からこそ、というのが筆者の結論のようだ。「またLCCで食べに来ますから」とインタビューに答えたこの日も、榊さんは福岡市で博多うどんを満喫していた。

●軟麺のゆで時間 なんと40分 榊さんお気に入り「牧のうどん」 スープつぎ足すやかんも

 “魔法の麺”にスープをつぎ足せるやかん…。福岡のうどん店の中でも個性を放つ「牧のうどん」が、榊真一郎さんの一番のお気に入りだと言う。今回も「食べねば」と言う榊さんに、記者も同行した。

 「うちは『博多うどん』と言っていいんですかね」。苦笑する畑中俊弘社長(53)の言葉通り、本店は福岡県糸島市。今月開店した博多バスターミナル店を加え、福岡、佐賀、長崎3県に計19店舗を展開している。純粋な博多うどんではないかもしれないが、福岡市民の多くが好きなうどんとして名前を挙げる代表格の一つだ。

 同店では軟(やわ)麺、中麺、硬麺の3段階が選べるが、軟麺のゆで時間はなんと40分! 「『超軟』を頼まれて、60分以上ゆでたこともありますよ」と畑中社長は明かす。榊さんは「讃岐うどんのゆで時間は15分以下。同じうどんでも全然違うし、手間がすごい」と教えてくれた。

 この店の一杯を「いくら食べても減らない魔法のうどん」と表現する常連客もいる。食べている間もどんどんスープを吸い、麺が増えているような錯覚に陥る。畑中社長によれば、釜揚げの麺は水で締めずに提供されるため、表面からスープを吸い込み、どんどん軟らかくなるそうだ。

 また、各テーブルにはスープが入った名物のやかんが置かれている。もともと1人分の麺の重さが約500グラムもあり、丼の中のスープの比率が少ない。麺がスープを吸ってしまっても、客が自由につぎ足せるようにというサービスだ。経費は「年間、数千万円」。

 麺とスープは糸島市の工場で製造し、毎日各店舗に配送する。関東での出店要請もあるが「品質を保つのが難しい」(畑中社長)ため、現時点で“関門海峡を越える”予定はないそうだ。

この記事は2016年03月26日付で、内容は当時のものです。

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