【忘れてませんか? 参院選 課題チェック】<3>福祉 長生きしたいと思う国

認知症のお年寄りを車椅子に移す理学療法士。介護の仕事は肉体労働だ 拡大

認知症のお年寄りを車椅子に移す理学療法士。介護の仕事は肉体労働だ

 ある冬の夜。福岡市のグループホーム運営会社「スマイルケア」社長の三浦叔子(よしこ)さん(56)は、1人で夜勤をする介護職の様子が気になり、ホームを訪ねてみた。ドア越しに中の様子をうかがうが、物音が聞こえない。夜勤者には、認知症の人の部屋の見回りや排せつ支援など、朝まで仕事が山ほどある。「まさか、うたた寝でも…」。意を決してドアを開けると、その介護職はスリッパを脱ぎ、足音を潜めて部屋を行き来していた。

 「スリッパの音は意外に響くんで、せっかく寝付かれた方を起こしちゃいけないと思いまして」

 真冬の夜、フローリングは冷え切っている。靴下をはいていても、足が冷たかろうに…。「○○さん、そろそろトイレに行きましょうね」。声掛けの言葉も、昼間と同様に優しさに満ちている。三浦さんの目に、うれし涙がにじんだ。「陰ひなたなくお世話ができるこの人なら、決して高くはない賃金でも、頑張ってくれるのでは…」

 こうした介護職一人一人の献身と使命感が高齢社会を支えている。だが、介護職を取り巻く現状は切実だ。2011年度介護労働実態調査によると、全国で介護職の不足を訴える事業所は53・1%。介護職の離職率(1年間で辞める人の割合)は16・1%で、他業種より高い傾向が続く。「今の介護報酬では、人材確保のために十分な賃金が払えない」と訴える事業所が半数に上った。介護職には「仕事内容の割に賃金が低い」「身体的負担が大きい」との不満がくすぶる。このままでいいのだろうか。

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 日本では今、世界のどの国も経験したことのない高齢化が進行している。65歳以上の人口が昨年、3千万人を突破した。12年の高齢化率(65歳以上の割合)は世界最高の24・1%だ。年金や医療、福祉に用いられる社会保障給付費は10年度に初めて100兆円を突破し、103兆4897億円に達した。30年前の約4倍の額だ。高齢者関係の給付費(年金や高齢者医療、福祉サービスなど)が70兆5160億円で、全体のほぼ7割を占める。

 そんな中、12年12月、当時の野田佳彦首相は施政方針演説で「胴上げ、騎馬戦、肩車」の例えを持ち出した。運動会の話ではない。高齢者を支える形態が大きく変わったのだ。

 終戦から間もない1950年には、15~64歳の現役世代12・1人で1人の高齢者を支えていた。余裕十分の胴上げ型である。それが急激な少子高齢化の進展で、2012年には2・6人で1人になった。3人で馬を組む騎馬戦に近い。今から47年後の60年には、1・3人で1人を支えないといけなくなる。ほぼ肩車の状態だ。一刻も早く、将来の世代に負担をかけない持続可能な社会保障の仕組みをつくらないといけない。

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 認知症高齢者の増大も切実な問題だ。認知症になると、記憶や判断力に障害が出て、普通の生活が営めなくなる。怒鳴ったり、徘徊(はいかい)したりする人もいて、介護する側の負担は大きい。

 そんな認知症高齢者は12年に305万人とされていたが、厚生労働省の研究班が今年6月、ショッキングな推計を発表した。認知症の人は既に約462万人に上り、さらに高齢者の4人に1人は認知症かその“予備軍”だというのだ。複数の県の人口に匹敵する数である。認知症の人と家族の生活をどう支えていくかは、もはや国家的命題だ。

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 そうしたことを踏まえて今回の参院選の意味を考えてみたい。参院選は政権選択選挙ではないが、結果次第では首相の首がすげ替えられることもある。国の政策にイエスかノーかを、1票で示せる選挙だ。ただ、これまでの論戦では、アベノミクスや景気対策、憲法論議が目立ち、高齢化をめぐる問題はあまり争点になっていない。

 日本は世界一の長寿国だ。平均寿命は男性79歳、女性86歳。長い年月を働きづめで国を支えてこられた方々に、老後くらい何の心配もなく過ごしていただきたい。世界一長くなった老後をどう充実させるかで、日本人の幸福度は大きく変わるのだ。まず、介護予防の取り組みの強化が必要だ。年金や医療・介護保険制度はしっかり維持しないといけない。そうすることで現役世代も憂いなく働けるようになり、国の活力も生まれるのではないか。

 お年寄りから「長生きなんかしなきゃよかった」という嘆きを聞くことほど、現役世代として情けないことはない。クールジャパンもいいが、子どもや働き盛りの人も含めて、みんなが長生きしたいと思う国-。それこそが目指すべき日本の姿ではなかろうか。


=2013/07/18付 西日本新聞朝刊=

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