物乞い“失業” おじいに支え タイで「禁止法」 近く施行 「寺に寄付」へ住民恩返し

 【バンコク浜田耕治】タイ軍事政権の国会に当たる暫定議会で、路上などでの物乞いを禁止する法律が成立した。マフィアが不法入国者らを使って組織的に物乞いをさせるケースが多いためだ。近く施行されるが、メディアでは“仕事”を奪われる一人のおじいさんが話題になっている。

 おじいさんの名前はイヤムさん(65)。首都バンコクから西に約60キロのナコンパトム県。平日でも数千人が訪れる名刹(めいさつ)・ライキン寺の境内に1人寝泊まりし、40年近く物乞いをしてきた。

 幼いころのポリオで手足にまひが残り、言葉も途切れ途切れにしか話せない。だが「寝泊まりさせてくれる恩返しに」と、手にしたお金をこつこつためて毎年、寺に寄贈。4年前には100万バーツ(約320万円)もの大金を寄付し、ニュースに取り上げられた。

 そんなイヤムさんが窮地に陥った。タイの軍事政権は昨年から、人身取引対策と観光面でのイメージアップのため、物乞いの禁止を検討。今月初めの暫定議会で「物乞いを管理する法律」を成立させた。物乞いをした人や、それを利用した人は処罰される。

 背景にはマフィアの存在がある。タイ国内の物乞いは昨年1月時点の調査で1567人だが、実際は5千人以上といわれる。最低でも1日500バーツ(約1600円)の収入があるため、マフィアがカンボジアなどからの不法入国者に物乞いをさせて上前をはねるケースが多いという。

 新法施行を前に、境内から退去せざるを得なくなったイヤムさんだが、寺は近くにある貸部屋を無償で提供した。近隣の住民たちも手を差し伸べ、車いすのイヤムさんがトイレに行きたいときや、おなかをすかせたときに手助けしている。

 「また戻りたい」と寂しげなイヤムさん。近くで料理店を営むマリワンさん(56)は「おじいさんはぜいたくをせずに、お寺にタンブン(布施)をする優しい人。そんな人柄を知っているから、みんな助けるんです」と語る。法律では割り切れない、懐の深さがこの国にはある。

この記事は2016年03月28日付で、内容は当時のものです。

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