美闘魚ベタ 世界で人気 スマホ広告が口火 「注文3倍」 タイ

 「ベタ」という魚をご存じだろうか。タイが原産の淡水魚だ。ドレスをまとったような長いひれときらびやかな色。気性の荒さから「闘魚」とも呼ばれる。昨秋、米アップルの広告に採用されたのをきっかけに、世界の注目が集まった。美しさを追求する繁殖の現場も熱を帯びている。(バンコク浜田耕治)

 首都バンコクの郊外にあるマーケット。ベタを販売する店では、壁一面に小さな水槽が並んでいた。体長5センチ前後で、飼育は1匹ずつ。複数入れると雄同士が縄張りを巡ってかみつき合いのケンカを繰り広げるためだ。

 客が訪れると、店員は水槽と水槽の間の仕切り板を外す。すると、他の魚がいると勘違いしたベタが、自分の体を大きく見せるために長いひれを広げて威嚇する。その瞬間の美しさを客に見せ品定めさせる。

 「あれから売り上げが急増しました」。店員の女性(32)は笑顔だった。1匹1500円前後。米アップルが昨年9月、スマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の広告にベタの写真を使って以来、シンガポールや台湾、日本から頻繁に客が訪れるという。取材中も通行人が「あっ、iPhoneの魚だ」と立ち止まった。

 ●品種改良で多彩な色

 ベタの写真を撮り、その人気に火を付けたのが、タイ人の写真家ウィサルット・アンカタワニッさん(45)だ。

 透明な水槽に入れたベタに、手鏡でベタ自身の姿を見せながらシャッターを押す。「3~4時間は観察していますね。『はい、そこで回って、止まって』と話しかけながら。まるでモデルを撮影するようにね」

 幼い頃、自宅で飼っていたが、以前は違う写真ばかり撮っていた。ある時、マーケットで目にしたベタの美しさに息をのんだ。身近なところに素晴らしい被写体があったことに初めて気付いたという。

 「もともと有名なタイの魚だけど、もっと有名になった。それに自分が一役買えたことがとてもうれしい。最近は品種改良が進んで、新しい色のものも次々と生まれてるんですよ」

 ●繁殖農家が情熱傾け

 バンコクの西約60キロのナコンパトム県。ベタの繁殖場は畑に囲まれた農村にあった。週に2万匹を世界各国に出荷する経営者のシリヌットさん(40)は「iPhone効果で注文は3倍になった」と話す。

 大学卒業後、農家だった実家に戻ってベタの繁殖を始めたときは、周囲から「ばかじゃないか」と笑われた。だが、独学で20年かけて品種改良を研究。コンテストで上位入賞の常連となり、タイ全土でトップ5に入るほどに成長した。

 「どんな色のベタが生まれるかは結局、自然任せ。ブームになって見学者が増えたけど、お金もうけをしたいだけの人には情熱が大事と言ってやるの」

 タイ政府も写真家のウィサルットさんに講師を依頼し、繁殖農家に撮影ノウハウを教えている。インターネットを通じて世界に直接売り込むためだ。シリヌットさんは言う。「美しいベタを生み出しているのはタイの農民たち。とても誇りに思っています」

この記事は2016年04月04日付で、内容は当時のものです。

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