【君(ペット)がいるから】<8>下半身まひでも6年間

 「桃子」は、シベリアンハスキーの雑種の中型犬で2歳。幼犬のころから気性が激しく、散歩も大暴れするので、飼い主は苦労していたと思います。

 いつものように散歩していたとき、道路の向こう側に別の犬を見つけた桃子は急に駆けだしました。勢いでリードが外れ、車道に飛び出し、車にひかれてしまいました。飼い主は慌てて動物病院に連れてきました。ひどい状況でした。何よりひどかったのは、痛み。痛みに耐えかねた桃子は、病院に運ばれる途中、何度も飼い主をかんだそうです。

 痛みの原因は腰椎骨折で、非常に危険な状態でした。助かっても、下半身まひが残るだろうこと、自力での排せつは困難で大変な介護が必要になるだろうことを、飼い主に宣告しました。同時に「安楽死」も選択肢の一つだと伝えました。想像を絶するような介護生活が続くのです。よほどの覚悟がなければ、愛情だけで解決できる問題ではないと、しっかり説明しました。

 飼い主は間髪入れずに「治療してください」と言いました。みじんも迷いはありませんでした。私は即座にその選択を受け入れ、治療に入りました。桃子は奇跡的な回復力で治療を終え、無事家族の元に帰ることができました。

 こうして、桃子と飼い主の介護生活が始まったのです。体位変換、排せつのサポート、定期的な入浴など、飼い主夫婦は頑張って続けていました。いや、むしろ楽しそうでした。最初は毎日、しばらくすると月1度になった通院も欠かさず、いいと聞けばどこまでも桃子を連れて行き、治療と介護に時間とお金を費やしました。

 桃子用の車椅子も製作しました。事故に遭う前は桃子に少し無頓着だった「お父さん」は、事故を機に大きく変わりました。桃子に寄り添う毎日が変えたのでしょう。桃子と飼い主が楽しげに散歩する姿は、地元では知らない人がいないほどで、マスコミにも何度か取り上げられました。そんな深い愛情と献身的な介護が桃子を救い、6年の歳月が流れたのです。

 その後、急な体調不良で来院した桃子は治療する間もなく、命を落としました。実にあっけない最期。飼い主は悲しみましたが、私は「桃子の最後の愛情、もう精いっぱい愛してもらったよ、という飼い主への思いやりだったのでは」と思いました。幸せで温かい気持ちを残して桃子は逝きました。私にとっても生涯忘れることができない出会いと別れになりました。

 (竜之介動物病院長、熊本市)

※この記事は2016/09/22付の西日本新聞朝刊(生活面)に掲載されました。

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