【揺らぐ裁き】(1)上 執行13秒前、残す言葉は「ノー」

スティーブン・スミス死刑囚に刑が執行された南オハイオ刑務所=米オハイオ州ルーカスビル 拡大

スティーブン・スミス死刑囚に刑が執行された南オハイオ刑務所=米オハイオ州ルーカスビル

 5月1日、米オハイオ州ルーカスビルの南オハイオ刑務所。スティーブン・スミス死刑囚(46)は午前3時に起床すると、コーヒーを飲み、前夜に続き手紙を書き始めた。執行まで残り7時間。

 同5時17分、娘のブリトニーさんから電話。約1分話した後、再び手紙を書き続けた。6時8分、パンケーキとシリアルの朝食が差し入れられたが口にせず、シャワーを浴びると、着替えに青いズボンと白いスモックが与えられた。

 6時31分、ブリトニーさんとめいが面会。スミス死刑囚はアルバム写真をめくり、「感情的になったり、笑ったり」しながら8時5分まで過ごした。途中、係官が本人と娘に葬儀方法の確認を取る。部屋を出る際、ブリトニーさんはひと言、「さよなら」と告げた。

 9時7分、教誨師(きょうかいし)が部屋に入る。同39分、スミス死刑囚はテレビのスイッチを入れ最期の時を待った。10時2分、係官が部屋に入り、起立を命じ、刑務所長が死刑執行の命令書を読み上げる。

 部屋から刑場まで廊下を歩いて十数メートル。刑場のガラス越しには壁で仕切られた二つの「立会人室」がある。被害者遺族用には実母ら3人。死刑囚の親族用にはブリトニーさんとめい。両者を見渡せる位置に、立会人としてAP通信と地元紙の記者計3人も入った。

 10時4分、スミス死刑囚は刑場に入り、ベッドにあおむけになると4本のベルトで固定された。医療チームが両腕に注射針を刺し、所長から最後の言葉はあるかと聞かれ15分10秒、「ノー」と答えた。

 同23秒、薬物の注入が始まる。天井を見詰め続けたスミス死刑囚が一瞬だけ娘の方に顔を向けた。ブリトニーさんは泣きながら絞り出すように「愛してるわ」とつぶやいた。それまで平静を装っていたスミス死刑囚は「泣くのをこらえるように、あごが小刻みに震えていた」。

 やがて動きが止まる。10時29分、所長が死亡を宣告。その瞬間、被害者遺族の一人が両こぶしを突き上げ、実母は遺体となったスミス死刑囚を黙って見詰め続けた。

    ◇   ◇

 多くの先進国で死刑制度が廃止される中、米国と日本は執行を続けている。だが、米国では18州が死刑を廃止し、残る32州の複数の州で廃止に向けた動きが起きている。背景には、死刑囚の無実が証明され、釈放されるケースが相次いでいる事情がある。極刑と誤判のはざまで揺らぐ米国の裁き(ジャスティス)を5回にわたり報告する。

 (ワシントン宮崎昌治)

=2013/07/18付 西日本新聞朝刊=

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