3児死亡飲酒事故10年<3> それでも断てなかった 治療へ地道な取り組み

 いつか飲酒運転で逮捕されるだろう。そう思っても、酒を抜くことはできなかった。

 2011年5月。福岡市の女性(28)が運転する車は住宅街で電柱に激突した。交際相手に会いに行く途中で、酒の臭いをさせていた女性は現行犯逮捕された。

 その2年前、女性はアルコール依存症の疑いがあると診断されていた。人と話すのが苦手で、不安を打ち消すように焼酎を飲んで出勤したのがきっかけ。毎朝1杯飲み、マイカーで勤務先へ向かった。酒が切れると手が震え、会社ではトイレで酒を飲んだ。仕事中に意識を失って病院に搬送され、依存症と診断された。

 その後も治療を受けず、酒は断てなかった。当初は「会話を弾ませる魔法の薬」だったが、酒が切れること自体が怖くなり、飲酒運転事故へとつながった。

 入退院を繰り返し、断酒した女性は振り返る。「酒を飲まないと立ち上がることもできなかった。飲酒運転は悪いと分かっていたが、働くためには仕方ないと思っていた」

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 厚生労働省によると、国内のアルコール依存症の患者は推計107万人(2013年)に上り、このうち治療を受けているのは1割程度にとどまる。

 「飲酒事故を防ぐため、病院に来ない依存症の人たちに、どうやって自らの病気を認識させるかが大きな課題」。30年近く依存症治療に携わってきた雁の巣病院(福岡市)の熊谷雅之院長(60)は力を込める。

 その解決策の一つになるのではと期待される取り組みが、10年前に3児死亡事故が起きた福岡県で行われている。

 飲酒運転で摘発された人は、医療機関を受診し、依存症かどうかを県に報告しなければならない-。飲酒運転を防ぐための全国でも厳しい条例で、12年にスタート。ルールが部分改正された昨年9月以降だけで対象は646人に上る。

 だが、受診したのは145人。5万円以下とする過料の罰則の対象を、2回以上摘発された人に限定していることが影響している。

 「電話や家庭訪問で粘り強く受診を促していく」と県担当者。再発防止へ地道な取り組みが続く。

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 刑務所でも飲酒運転の再発防止に向けた対応が進む。

 交通犯罪の受刑者約200人が入る千葉県の市原刑務所。飲酒運転違反者の半数以上に依存症の疑いがあり、回復プログラムを実施している。

 7月。20~50代の男性受刑者4人は小部屋で、自らの心と向き合っていた。ストレスがたまったときの兆候を問われた受刑者は「服や家電などを衝動買いする」。自らの行動パターンを知ることで、そのときの飲酒の危険性を認識させようとする試みだ。

 20代後半の男性受刑者は、依存症を調べる刑務所でのテストで、自らにその疑いがあることを初めて知った。

 3年前に飲酒運転の上、時速80キロで橋の欄干に激突する事故を起こし、同乗の友人1人を死なせ、もう1人に重傷を負わせた。懲役2年。それでも「事故を起こすのは酒に弱い人間。自分は依存症ではないと思っていた」という。

 「二度と過ちは繰り返さない」と受刑者は言う。酒との本当の闘いは、出所後に待っている。

この記事は2016年08月23日付で、内容は当時のものです。

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