【君(ペット)がいるから】<11>野良犬しろの「奇跡」

竜之介動物病院のアイドル犬だった「しろ」 拡大

竜之介動物病院のアイドル犬だった「しろ」

 竜之介動物病院(熊本市)のアイドル犬「しろ」が昨年、推定13歳で逝きました。

 出合いは、しろが2~3歳の頃。野良犬で、交通事故に遭って橋から転落し、瀕死(ひんし)の状態で担ぎ込まれてきたのです。脊椎を損傷し、下半身はまひした状態でした。内臓破裂などがなかったのは幸いでしたが、体の深部の痛覚まで完全にまひするなど、悲観的な要因ばかりでした。飼い主もおらず、性格もきつい。痛みと恐怖から威嚇し続けます。

 そのとき、ふと思いつきました。私が過去に診た動物には、この犬と同様の重度まひで要介護状態のペットもいましたが、私は介護の指導はしても、自らが介護を経験したことはありません。この犬の介護を実体験してみよう、と。

 「しろ」と名付け、病院スタッフと共に介護生活がスタート。予想以上に大変な毎日でした。まずは床擦れ。かなりの痛みがあるのか、ますます凶暴になりました。自力で排せつはできないので、定期的に導尿をしますが、嫌がって、騒ぎ、鳴きます。

 まひがない上半身を使って、必死で抵抗しようとします。しろの気持ちは分かるのですが、介護する側にとって抵抗は妨げにしかなりません。その繰り返しの日々に「この犬を助けたことは本当によかったのか」と、自信も戦意も完全に喪失していきました。

 ところが、半年くらいたった頃でしょうか。後ろ足に若干の反応が見られるようになったのです。スタッフ一同、驚きました。同時に、私も「もっと頑張れば」という意欲が湧いてきたのです。話し掛けたり、動かない下半身をさすってみたり。かすかに動いた後ろ足のリハビリには祈りがこもりました。

 1年後、しろはとうとう自力で立ち上がれるようになったのです。回復の見込みなど皆無だと思っていた犬に、スタッフみんなの愛情が奇跡を起こしたとしか言いようがない。それほどの大逆転劇でした。

 ただし、奇跡は簡単には起こりません。1年間、尻尾を切断する「断尾」や去勢などありとあらゆる手を尽くし、プロである私たちが懸命に介護を続けたからこそ起こったことで、一般の飼い主ができるかと聞かれたら疑問です。そのくらい並々ならぬ努力が必要だったのです。

 獣医学は日進月歩。きっと、今日の「無理」が明日には覆され、今よりもっと多くの命が救われる日が来るでしょう。しかし、どんな時代が訪れようとも、「治したい」「生かしたい」と思う飼い主の愛と熱意に勝るものはない。しろがそう教えてくれました。

(竜之介動物病院長、熊本市)


※この記事は2016/10/13付の西日本新聞朝刊(生活面)に掲載されました。

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