【人の縁の物語】<26>ひきこもり 経験者が支援 北九州の下川さん 同じ目線で心配り

北九州市ひきこもり地域支援センター「すてっぷ」の事務所で働く下川さん(左)。右はセンター長の田中さん 拡大

北九州市ひきこもり地域支援センター「すてっぷ」の事務所で働く下川さん(左)。右はセンター長の田中さん

 かつて「ひきこもり」だった男性が、当時の自分と同じ立場の若者たちを支える活動に取り組んでいる。北九州市ひきこもり地域支援センター「すてっぷ」(戸畑区)の職員、下川裕司さん(33)。「自分も周りの人が支えてくれて、ゆっくりと成長し直すことができました」-その経験を生かし、元当事者ならではの目線で見守っている。

 「すてっぷ」で今月16日、フリースペース「やわらかカフェ」が開かれた。ひきこもりの人たちが集い、交流する場。家を出てここまで来ることが、社会参加の第一歩となる。この日は20~30代の6人が参加した。

 「暑いですね。街で冷凍ミカンを配ってましたよ」。下川さんがホスト役として話題を提供する。男性参加者が「皮をむかなくていい冷凍ミカンがあること、知ってますか」と応じ、少しずつ会話が紡がれていく。

 「言葉や笑顔がだんだん増え、興味が広がっていく姿を見るとうれしくなります」と下川さん。ただ、時には無理に話し掛けず、そっとしておく場合もある。当時の自分と重ね合わせると、気持ちが見えてくる。

 そのままの自分を受け入れてくれる場所がある安心感-。その大切さは、元当事者だからこそ、身に染みている。

 小学5年のころ、学校に行けなくなった。頭やおなかが痛くなる。友達の前で明るくおどける子だったのに。家にいると安心できた。その理由が何か、自分では分からない。そのこと自体が不安を膨らませた。当初は「学校に行け」という父と取っ組み合いにもなった。

 20歳。もう大人だ。どうにかしないと…。精神科医に「外に出る方法を忘れているだけ」と励まされ、気が楽になった。100メートル先の自動販売機にジュースを買いに行く練習から始めた。

 そのころ、ひきこもりを支援するNPO法人「STEP・北九州」の田中美穂さん(62)と知り合い、当事者の集いに顔を出すようになった。初めは相づちを打つのが目標。「成長のし直し」には時間がかかったが、周りが自分のペースに合わせて伴走してくれた。

 「すてっぷ」が開所したのは2009年。国のひきこもり対策推進事業として、STEP・北九州に運営が委託され、田中さんがセンター長になった。下川さんにも声が掛かる。その理由を田中さんは「先が見えない時代に若い人はいかに生きるか悩んでいる。身を持って体験したからこそ、気配りがとても細やかだから」と語る。

 主に18歳以上で、社会参加を避けて半年以上、自宅にとどまる「ひきこもり」は、全国に約70万人いると推計される。深刻さが増す中、下川さんはひきこもり支援コーディネーターとして、当事者や家族の相談を受けたり、支援者宅での食事会を手伝ったりと、寄り添う活動を続けている。

 その傍ら、通信制大学で学び、社会福祉士の資格取得を目指している。「皆さんと一緒に地道に成長していきたい」。当事者の一歩を支えながら、下川さんもまた、一歩ずつ前に進んでいる。

=2013/07/23付 西日本新聞朝刊=

PR

PR

注目のテーマ