「ゾウ害」多発 作物食い荒らす 20頭出現も 知能高く 対策いたちごっこ タイ

 野生のアジアゾウが農作物を食い荒らす「ゾウ害」がタイで多発している。農家はあの手この手で自衛に懸命だが、ゾウは学習能力が高く、対策はいたちごっこだ。保護区域での増殖が一因とみられ、専門家は「共存の道を探るべきだ」と呼び掛けている。(バンコク浜田耕治)

 「ゾウたちは夜やってくる。約20頭で家を取り囲み、窓をドンドンとたたくんです」。東部チャンタブリ県パワー区で農業を営むダララットさん(36)は恐怖の体験を語る。家族は全員無事だったが、屋外のバイクや洗濯機などはめちゃくちゃに壊された。

 パワー区で被害が出始めたのは3年前から。ゾウたちは国立公園から農地に侵入し、パイナップルやバナナを根こそぎ食べ、踏みつぶしていく。タイ政府は昨年の国内被害額は約400万バーツ(約1200万円)としているが、実態はもっと深刻との指摘もある。

 世界自然保護基金によると、アジアゾウは20世紀初頭に10万頭以上生息していたが、森林開発や密猟で現在は5万頭前後に減った。ただ、タイでは保護されており、2500~3200頭がいるとみられる。

 ◆蜜蜂作戦で撃退

 ダララットさん宅には6月から、政府の支援で試験的な対策が導入された。家の周囲にロープを張り、蜜蜂の巣箱40個をつるす。ゾウが中に入ろうとすると巣箱が揺れ、毒針のある蜂が襲いかかる仕組みだ。

 「初めは半信半疑だったけど、ゾウは蜂に刺されると、嫌がって二度と来なくなった」とダララットさん。ただ、巣箱は1個5千バーツ(1万5千円)かかる。広大な農地なら何千という数が必要になり、コスト面が大きな課題だ。

 パワー区では農作物を守るため、総延長が数十キロに及ぶフェンスの整備を検討中だ。子どもが乗るスクールバスとゾウが遭遇しないよう、銃を持った公園職員も巡回している。東北部ブリラム県では7~9月に計3人がゾウに襲われて死亡した。ゾウが住民に殺されるケースも増えている。

 ◆過密で人里に?

 ゾウの生態に詳しいタイ研究保護財団のアロンコット会長は、農作物の食害が相次ぐ背景について、(1)保護区域内での頭数増加(2)森林開発による生息地の減少-などを挙げる。

 ゾウの雄は1頭で数十平方キロの縄張りを持ち、保護区域の国立公園内はゾウが増えて過密状態になっている。森林のすぐ近くまで農地開拓が進んでいるため、1日に200キロ必要とされる食料を求めて、人里に現れるようになったという。

 厄介なことにゾウは知能が高く、記憶力もいい。農作物の味を覚えると仲間同士で教え合い、電気柵なども協力して破壊し、群れで侵入する。一方で絶滅が危ぶまれ、保護が義務付けられた動物でもある。

 アロンコット会長は「食害は今後さらに深刻化するだろう。だが人間にも原因の一端はある。農作物の種類をゾウが好まないものに切り替えたり、通り道を確保したりして、共存を目指すしかない」と話す。

この記事は2016年10月05日付で、内容は当時のものです。

PR

社会 アクセスランキング

PR

注目のテーマ