筑豊の幽霊や妖怪 真偽求め… お菊の井戸に“ぞくっ” 嘉麻市に伝わる皿屋敷伝説 心霊トンネルも 福岡県

 ●人寄せぬため怪談話?

 夏の夜といえば怪談。筑豊にも幽霊や妖怪にまつわる数々の逸話が残る。実際にあった殺人事件を基にした心霊スポットもあるという。蒸し暑さが続く中、ぞくっとしたくなってゆかりの地を訪ねた。出るのはお化けか、幽霊か-。

 家主から「皿をなくした」と無実の罪を着せられた手伝いのお菊が、井戸に身を投げ亡霊になったという皿屋敷伝説。嘉麻市上臼井にはお菊の霊をまつったほこらと井戸がある。8月下旬の夜、お菊が身投げしたという井戸を探した。

 屋敷があったという場所は空き地になっていた。住宅街の一角なのにまるで人気がない。懐中電灯の明かりを頼りに井戸を見つけた。直径1メートルもない。お菊はかなり小柄だったのか。

 中をのぞいてみたが、真っ暗で何も見えない。電灯で照らしても底まで光が届かない。「ワン、ワン!」。突然犬のほえる声が聞こえた。跳び上がるほど驚いた。お菊の霊がそばにいるような気がして、さい銭を置いて慌てて立ち去った。

 皿屋敷伝説は嘉麻市だけではなく、全国で語り継がれている。桂川町の郷土史家、貝嶋亮三さん(91)は「封建社会の厳しさから生まれた悲話は、庶民の同情を引きやすかったのだろう」と推測する。

 約40年前までは、お菊の命日とされる6月24日に住民がほこらの前に集まり、飲食するのが恒例だったという。「地元の人は『お菊さんがね』と自分の娘の話でもしているようだった」と貝嶋さん。怪談は地域の結びつきを強める効果もあったようだ。

    ◇    ◇

 午後10時ごろ、今度は香春、みやこ両町境の峠にある旧仲哀(ちゅうあい)トンネルへ向かった。約50年前に殺人事件があったとされる場所だ。インターネット上では心霊スポットとして取り上げられている。地元の知人にも「あそこはやめたほうがいい」と止められた。魔よけ効果があるとされる塩を、体と車に念入りに振りかけてハンドルを握った。

 峠道には枝が散乱していた。車が踏むたびにバキバキと不気味な音を立てる。約10分上り、トンネルの入り口に到着した。今は通行禁止のため金網が張られているが、一部に人が入れるくらいの穴が開いていた。

 先客がいるのか、金網の前には軽自動車とバイクがあった。トンネルの中で懐中電灯らしき光がちらちらと動く。入り口の様子を撮影するためカメラのストロボを光らせると、トンネルの中から「ギャー」という叫び声が聞こえた。驚かせてしまったようだった。取材しようとしばらく待ったが、出てこなかった。

 ネット上では「トンネル内でちょうちんを持った人たちが歩いていた」「行った後に体調を崩し除霊してもらった」など真偽不明の情報が書き込まれている。かなり尾ひれがついている印象だ。香春町観光協会の桃坂豊事務局長(55)は「町に関心を持ってもらうのは悪くないが、真夜中に訪れて不慮の事故につながらないか心配」と話す。

 県文化財保護指導委員で県内の民俗にも詳しい桃坂さんは「悲劇や教訓を子どもに分かりやすいように仕立て上げたのが怪談。いわば先人の知恵だ」と指摘する。廃トンネルに幽霊が出る話は「危険だからむやみに近寄るな」とのメッセージも読み取れる。実際、1889年築造の旧仲哀トンネルは天井崩落などの恐れがあるという。霊よりずっと怖い危険が潜んでいるかもしれない。

 ●炭鉱事故の亡霊、首なし地蔵

 筑豊には他にも怖い話が伝わる。炭鉱が関連する話は旧産炭地ならではだ。

 男が石炭を掘っていると、突然若い女が現れ、仕事を手伝ってくれた。2人は坑内で会うようになったが、地上に上がる時はいつも別々だった。ある日、女は決心したように「私は一人娘なので嫁に行けません。良かったら養子に来てくれませんか」と告げた。

 喜んだ男は後日、女に教えられた家を訪ねた。しかし、住んでいたのは老夫婦のみ。夫婦は「娘は坑内の事故で死にましたが、あなたの話はうそと思えません」と答えた。男は養子縁組をして、娘に代わって夫婦を養ったという。

 長崎街道の難所だった冷水峠には「首なし地蔵」の逸話が残る。

 峠道で休んでいた旅人が、地蔵の影から出てきた山賊に切り殺され、財布を奪われた。山賊が「誰にも言わないでくださいよ」と地蔵に話し掛けると、地蔵は「私は誰にも言わないが、おまえこそ言わないように気を付けろ」と口を聞いた。気味が悪くなった山賊は地蔵の首を切り落とした。

 数年後、殺された旅人の息子が首なし地蔵の前で一休みしていると、男がやってきて「ここじゃったのう、俺が旅人から金を奪ったのは。えらい金持ちじゃった」とつぶやいた。息子は、この男こそ父の敵と直感し、その場で切り捨てた。首なし地蔵は今も峠に残っているという。

 ほかにも妻が巨大なクモに化ける話や、身ごもったサルを食べた猟師が発狂した話などが伝わる。

この記事は2015年09月04日付で、内容は当時のものです。

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