韓国 歴史教科書国定化 朴政権「自虐史観」を敵視 「若者の支持低迷の元凶」

 韓国の朴槿恵(パククネ)政権が中学と高校で使う歴史教科書の国定化を決めた。教育への政治介入はできるだけ避けるのが民主主義の基本理念だが、それに逆行しているように映る。なぜいま「国定教科書」なのか。(ソウル植田祐一)

 ●偏向

 「歴史教科書執筆陣の80%が偏った歴史観を持つ特定の人脈につながっている。左寄りの教科書と見ざるを得ない」。朴氏は10月22日、与野党幹部らとの会合で、現行の歴史教科書をこう批判した。

 韓国は日本などと同様、民間出版社の教科書を使う検定制を採用している。「韓国史」は高校で8種、中学で9種あるが、朴氏ら保守派はこの大半を「左派偏向」とみなす。

 保守系がよく指摘するのが元大統領の李承晩(イスンマン)、朴正熙(パクチョンヒ)両氏の評価だ。それぞれ「建国の父」であり、「漢江の奇跡」と呼ばれる高度成長を導いた功績にもかかわらず、植民地支配の協力者の清算に消極的だったり、クーデターで長期独裁を築いたりした「負の側面」が強調されすぎている-と不満が強い。

 ●地獄

 韓国では1987年の民主化を機に、過去の軍事政権への批判が「解禁」された。抑圧されてきた市民側の「階級史観」が教科書にも反映された。

 ただ、保守系はこれを「自虐史観」とみなし、若者たちに根強い政権批判は教科書が元凶だと考えている。与党セヌリ党の金武星(キムムソン)代表は今月13日、党行事でこう述べた。

 「朝鮮戦争当時の韓国は世界の最貧国だったが、今や1人当たりの国民所得は3万ドル突破が目前だ。世界がうらやむ国になったのに、若者は(自国を)『ヘル(地獄)朝鮮』と呼び、自虐的になっている。これは歪曲(わいきょく)された教科書のせいだ」

 データがいら立ちを裏付ける。最新の世論調査によると、保守系のセヌリ党の支持率は39%で、革新系野党の新政治民主連合は26%。ところが40歳未満に限るとセヌリ党21%、新政治民主連合37%と逆転する。就職難など閉塞(へいそく)感が強い若者たちは圧倒的に野党支持なのだ。

 ●強要

 若者が自国に誇りを感じるようになれば社会への不満が減り、政治も安定する-。「教科書介入」の背景には、「自虐史観」をやり玉に挙げる日本の保守勢力とも共通する政治の思惑がある。

 革新系を中心に世論の反発が強いのは当然だろう。大学では「国家による歴史観の強要だ」と教科書執筆を拒否する教授陣の声明が相次ぎ、野党は「独裁を美化しようとしている」と激しく非難した。

 それでも政府は3日、17年からの歴史教科書の国定化を正式決定した。再選が禁止されている韓国の大統領は、任期5年の折り返しを過ぎると求心力が低下する。「抵抗の強い政策を押し通すのは今しかないと判断した」(韓国紙記者)との見方がある。

 民主化の進展と、その揺り戻し。せめぎ合いの中、非公表の執筆陣による1年がかりの教科書執筆作業が近く始まる。

この記事は2015年11月29日付で、内容は当時のものです。

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