中国の病院 ダフ屋横行 医師不足 受診待ちで長蛇の列 整理券先取り 高値で売却

 【北京・相本康一】中国のインターネット上で、一つの動画が注目を集めている。北京の病院で診察を受けようと順番待ちをしていた女性が、診察整理券を高値で売りさばく「ダフ屋」の男に怒りをぶつけている姿だ。中国の都市部では、こうしたダフ屋は珍しくない。質の高い医師の不足など、中国社会が抱える医療の課題が浮き彫りになっている。

 ■動画が拡散

 「病気を診てもらうのに、なぜこんなに高く、難しいのか。あなたたちはやり過ぎだ」。女性がまくし立てる動画が撮影されたのは1月末、北京の総合病院でのことだ。「もし帰り道に死んだらどうするの。ここは北京だよ、首都だよ!」

 中国メディアによると、女性は黒竜江省に住む大学生。内臓の病気を患う母親に専門医師の診察を受けさせようと、一緒に北京に来た。受診する場合、ネット予約できるケースを除き、受付に並んで診察料を支払い、整理券をもらう必要がある。診察料は専門医師であればあるほど高額になり、競争率も高い。

 女性は順番待ちをしながら病院のロビーで一夜を過ごした。しかし、ダフ屋グループが強引に割り込み、受け付けは終了。ダフ屋が女性に示した「提示額」は、元値の300元(約5千円)から4500元(約8万円)に高騰していた。

 居合わせた人が撮影した動画は、ソーシャルメディアを通じて拡散。北京市当局がダフ屋の一斉摘発に乗り出す騒動になった。

 ■都市へ殺到

 世界銀行の統計(2007~12年)によると、中国の千人当たりの医師数は1・9人、看護師・助産師数1・9人、病床数は3・8。いずれも日本の2・3人、11・5人、13・7を下回る。しかも、中国の医師数には、医学部卒ではない「補助医師」も含む。医療の人手不足は深刻だ。

 「診察数で報酬が決まるなど、医師の待遇は必ずしも高くない」と中国メディア関係者。営利主義もはびこり、患者とのトラブルが頻発している。

 地域間格差も大きい。できるだけ良い治療を受けたいと、地方の患者たちは北京など都市部の総合病院に殺到。ダフ屋が暗躍する素地を生んでいる。動画の女性の「怒り」は、人々の不満を代弁しているからこそ共感を集めたのだろう。

 「小康社会」(ややゆとりのある社会)実現に向け、医療改革を掲げる中国政府も無視できない。全国人民代表大会(全人代=国会)に出席した国家衛生計画出産委員会の李斌主任は中国紙の取材に語った。「(動画の)彼女に感謝しなければならない。難題解決を促してくれた」

 ■消えぬ需要

 動画が撮影された北京の病院を訪ねた。多くの患者たちが受付に並ぶ。ダフ屋らしき姿は見掛けなかったが、「需要」がある以上、舞い戻ってくるだろう。

 「ダフ屋は知っている。病気になったら、みんな必死だから高くても買う」。診察を待っていた女性(74)は話した。地元黒竜江省の病院も受診したが、医師の対応に納得できず北京に来た。付き添いのため、娘に仕事を休んでもらったという。「市民には負担が重過ぎるわ。みんな医療の充実を望んでいるのだけど」

 動画の女性は専門医師の受診を諦め、母親は競争率の高くない一般医師に診てもらった。故郷に帰った後、話したという。「こんなひどい目に遭うとは思いもしなかった」

この記事は2016年03月22日付で、内容は当時のものです。

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