共産党的中国 ふしぎな常識<6>最高裁長官は元知事

 事務所を訪ねてきた女性は、弁護士の張さん(51)=仮名=の前で土下座したまま、動かなくなった。「どうか、お願いします」

 女性の息子は1994年に河北省で起きた殺人事件で死刑判決が確定し、執行された。その後、別の事件の容疑者が犯行を供述。「冤罪(えんざい)」の疑いが浮上した。

 捜査に関わった関係者は昇進している。再審を勝ち取れる自信はなかったが、張さんは女性の熱意に負け、代理人を引き受けた。

 あれから10年以上。2014年末に証拠書類が開示され、再審に向けて動きだした。「習近平指導部の法治キャンペーンの下、司法は変わりつつあります」

 冤罪の掘り起こしだけではない。かつて「人治の国」と呼ばれた中国では今、司法制度改革が矢継ぎ早に打ち出されている。主導するのは最高人民法院の周強・院長。日本でいえば最高裁の長官である。この人物、実は法律家ではない。

 胡錦濤前国家主席や李克強首相と同じく、共産党の青年組織である共産主義青年団(共青団)トップの第1書記を務めた。「ポスト習」世代で嘱望されるエリート政治家である。院長に就く13年3月までは湖南省党委員会書記だった。いわば、知事から最高裁長官へ転身したことになる。

 もっとも、最高人民法院とはいえ、警察・司法を統括する党中央政法委員会書記の指揮下にある。「三権の長」である日本と異なり、司法も「党の指導」を受けることに変わりない。

 2日付中国紙、新京報は「中華全国弁護士協会」の朱征夫副会長のインタビューを掲載した。当局に拘束された人権派弁護士や知識人を国営テレビなどに登場させ、「罪を認める映像」を放映させる手法に対し、朱氏は「容疑者の権利保護や公正な司法確立に有益ではない。世論による『審判』につながる」として取りやめるべきだと訴えた。

 最近目立つ「ざんげ映像」の背景には、「見せしめ」効果を狙う当局の意向があるとみられ、当局の強要を疑う見方も消えない。朱氏は全国人民代表大会(全人代)を控え、3日に開幕した国政助言機関・人民政治協商会議(政協)の委員。有力法律家による異例の注文は、中国社会の法意識の高まりと無縁ではない。

 習指導部が「法治」を強調すればするほど、法を超越するかのような党の存在との「矛盾」が浮かぶ。

この記事は2016年03月05日付で、内容は当時のものです。

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