阿蘇孤立 救出阻む 熊本震度6強続発 山えぐれ 道路寸断 1階つぶれ 学生生き埋め 南阿蘇村

 16日未明、暗闇を切り裂くように震度6強の「本震」が襲った。その後も続く強い余震。学生アパートや神社を押しつぶし、橋が崩落、山あいの集落は取り残された。深刻な被害は熊本県阿蘇地方や熊本市都心部、大分県まで拡大。防災拠点の市役所は無残に傾き、病院も損壊した。「無事でいて」。倒壊した家屋に声を掛けながら、懸命の救助活動が続く。人々が肩を寄せ合い朝を迎えてからも、時間を追うごとに犠牲者は増えていく。17日にかけ大雨の恐れもある。悪夢はいつまで続くのか-。やり場のない悲しみと不安が、変わり果てた故郷を覆った。

 火の国のシンボルも激震に襲われた。16日午前1時25分ごろ、さらに2時間半後にも震度6強が観測された熊本県阿蘇地方。一大観光地の橋や道路は次々に切り裂かれ、家屋の倒壊が多発し、救いの手を待ちわびる住民たちが孤立した。

 県などによると、阿蘇の外輪山沿いに走る国道57号、325号、九州有数のドライブスポット「やまなみハイウエー」(県道11号)は路面に亀裂が入ったり、一部が削れ落ちたりするなどして寸断された。

 勇壮な火山と各地を結ぶ阿蘇大橋(同県南阿蘇村)も崩落し、南阿蘇大橋(同)も亀裂が入って通行できない状態に。孤立した集落の住民から助けを求める通報が相次ぐ中、警察や消防の現場到着は難航した。

 南阿蘇村の河陽地区でも多数の家屋が倒壊した。土砂崩れも起き、複数の人が生き埋めになった。レスキュー隊の到着を待ちきれない住民たちは協力して救出活動を開始。広範囲で停電したため、複数の車を半円の陣形を組むように並べ、ヘッドライトを照明代わりに救助を急ぎ、角材とブルーシートで作った担架で救出した人を運んだ。

 阿蘇大橋の近くにある2階建てアパート「グリーンハイツ」も複数の棟で1階部分が押しつぶされた。東海大阿蘇キャンパスの学生たちが生き埋めになり、12人を救出。そのうち男女2人の死亡が確認された。

 助け出された東海大農学部4年の女子学生(22)は「寝ていたら突然ドーンという音がした。壁が倒れてきたので、目の前の隙間に入り込んだ。身動きがとれない間、友人たちが『もうすぐ救助がくるからね』と声を掛けてくれて心強かった」と話し、座り込んで、ぼうぜんと現場を眺めた。

 近くでは大規模な山崩れも発生し、少なくとも民家3棟がのまれた。会社員女性(49)は「5人以上が埋まっているのではないか。心配だ」と話した。

 観光地での孤立も続出。垂玉温泉や地獄温泉では近くで土砂崩れが起き、宿泊客らが取り残された。一方、警察車両はなかなか入れず、九州管区警察局は「自衛隊のヘリコプターでピストン輸送して応援部隊を投入する計画を立てている」として対応を急いでいる。

 被害は阿蘇地方の広範囲に及んだ。JR九州によると、16日未明の震度6強の地震で、同県阿蘇市のJR豊肥線赤水駅付近を試運転中だった列車が脱線。運転士にけがはなかった。豊肥線では土砂崩れで線路が押し流される被害も出た。

 阿蘇地方は、2012年の九州北部豪雨でも甚大な被害を受けた。家で過ごすのが怖く、妻や娘と車中で一夜を明かした同市の田川憲一さん(65)は「電気もガスも止まった。今夜から雨と聞いている。夜が来るのが心配だ」と話した。

 ●救助待つ声次第に… 死亡の内村さん 「余震と油断」悔やむ娘

 ▼益城町

 14日の地震で震度7を記録し8人が死亡した熊本県益城町を16日、再び悲劇が襲った。既にもろくなっていた家屋や路面が次々と崩壊、亡くなる人も出た。

 「すぐに助けが来るから」「うん…」。その声は次第にか細くなっていった。同町平田では住宅倒壊が相次ぎ、内村元美さん(55)の自宅隣の実家に住む両親も1階に閉じ込められた。道路の亀裂もあり救助隊の到着は119番の30分後。母は間もなく救助されたが、父の宗春さん(83)は巨大なはりの下敷きになった。救助隊による懸命な救出作業。しかし間に合わなかった。

 「14日の地震では家はびくともしなかった。余震なら大丈夫と思っていた。避難させておけば…」。元美さんは悲嘆に暮れた。

 一方、避難場所となった総合体育館は、前日の2倍近い約千人であふれかえった。「今は命があったのがありがたい」と同町宮園の村上セイコさん(68)。2階の壁が崩れ、部屋のドアがベッドまで飛んできた。屋根の下に閉じ込められたが「助けて」という声を聞きつけた住民が救助隊を呼び助け出された。

 壁とベッドの隙間から自らはい出し、母も救助したという同町福原の米村義隆さん(62)は「しょんない(仕方ない)。もう家に帰ることはできん」と疲労感をにじませた。同町消防団長によると、町中心部の被害が特にひどく、生き埋めと家屋倒壊が午前6時現在で30件を超えていたという。

 ●阿蘇神社も崩壊 国の重要文化財「楼門」

 外輪山の北側にある熊本県阿蘇市一の宮町の阿蘇神社では、国の重要文化財「楼門」の柱が折れてつぶれ、拝殿が崩れ落ちた。

 神の婚儀を祝う伝統の「火振り神事」で知られ、古くから地元に愛されてきた神社。知らせを聞いた住民たちが朝から大勢訪れ、心配そうに破損状況をうかがっていた。

 近くの男性(65)は「阿蘇神社は阿蘇山の怒りを鎮める役割を果たしているのに、一夜で崩れた。非常にショックだ」と話した。

 ●阿蘇山で小規模噴火

 16日午前8時半ごろ、熊本県・阿蘇山の中岳第1火口でごく小規模の噴火があり、噴煙が火口から高さ100メートルまで上がった。福岡管区気象台によると、噴火は3月4日以来で今年4回目。噴火と地震との関連性は不明という。

 ●阿蘇大橋跡形なく… 上空ルポ

 朝日に浮かんだ村には惨状が広がっていた。山肌はごっそりえぐられ、地面には切り裂かれたような地割れがいくつも走っている。16日朝、震度6強の地震に見舞われた熊本県南阿蘇村上空をヘリコプターで飛んだ。

 午前6時に福岡空港を出て約30分。南阿蘇村上空に入ると、信じられない光景が目に飛び込んできた。本来あるはずの阿蘇大橋がない。近くの山が頂上付近から数十メートルにわたって土砂崩れを起こし、裾野にあった大橋は影も形もない。上空から見ている間もがらがらと土砂が崩れ落ちていく。国道57号は4車線全てが土砂に埋もれていた。地面にはあちこちに亀裂が入り、黒い線が不気味に浮かぶ。道路は各地で寸断され、今後の復旧の難しさを想像させる。

 つぶれたアパートもいくつか見える。その周囲には心配そうに見守る人も。近くの運動場には約50人が避難している。ブルーシートの上で毛布にくるまったり、地面にうずくまったりしている。ヘリコプターに救助を求めるかのように手を振る人もいた。

 未明に起こった地震の被害の全容はまだ見えない。ただ、九州に住む私たちが経験したことのない大規模な被害であることは疑いようがなかった。

この記事は2016年04月16日付で、内容は当時のものです。

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