ぶらり筑豊 はしご酒 その店名 なぜ スナックママの思い秘め 福岡県

 ■あなたと街の物語■

 変わった店は数あれど、こんな店名聞いたことない。その名もずばり「へんな店」。飲食店が集まる飯塚市飯塚のビル1階。キスマークの看板が怪しげに光る。

 恐る恐るドアを開けると、つけヒゲ、だて眼鏡の女性たちが目に入った。「客もスタッフも仮装して踊る。楽しいよ」。経営者の岬マキさん(58)と、スタッフの友斗さん(32)の笑顔がはじける。歌って踊れるスナックらしい。

 女性客が7割。衣装やカツラ、扇子といったグッズは客が買ってきたものという。「ネクタイ姿の会社員さんがきれいなドレスに着替えて歌う。ストレスを解消してるんだね」

 2人は「体は女性、心は男性」のオナベ。岡山県倉敷市出身のマキさんは17歳で夜の世界に飛び込み、大阪と岡山のオナベクラブやスナックで働いてきた。

 4年前、知り合いのママに誘われて飯塚に来て、昨年5月に独立。「インパクトのある名前」と考えたのが「へんな店」だった。「『へんてこりん』と迷ったけど、注目されたから狙い通り」とマキさん。

 マキさんは21歳の時、テレビ番組のオナベコンテストで優勝。女性からバレンタインのチョコを500個もらったこともあるという。「性的少数者と言ったら昔は偏見で見られた。今は性同一性障害として理解も進んだね」。店名にも秘めた思いがあるのか、一瞬遠い目をした。

   ◇    ◇

 次の店名は分かりやすい。近くのスナック「ばっちゃん じっちゃん」。どんな高齢のママかと思いきや、あれ、意外と若い。

 ママの小林肇代(はつよ)さん(62)が開店を決めたのは約30年前。自分の名前から店名は「はっちゃん」にするつもりだったが、思わぬ横やりが入った。

 「10画は字画が悪い。12画ならいいんだが」。相談した僧侶の言葉に肇代さんはひらめいた。濁点を付けて「ばっちゃん」。「年を取っても使えるでしょ」

 字画が良かったのか店は繁盛し、2店目の「じっちゃん」も出した。2店で最大16人の女性を雇ったが、結婚して減り、16年前に店を一つにした。店名も「ばっちゃん じっちゃん」とくっつけた。

 「10周年パーティーには女の子やお客さんが300人も来てくれた。幸せね」。優しい目は孫を見るおばあちゃんのようだった。

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 気になっていた店がある。中心街から離れた飯塚市菰田西3丁目の「Yesと答えて ごめんね」。なぜ謝っているのか。

 「桂銀淑(ケイウンスク)さんの歌が流行していた1997年に店を出したの」。ママの八島しのぶさん(60)の答えはシンプルだった。「『Yes』と答えて」は歌のタイトル。しのぶさんは当時、この曲を持ち歌に各地のカラオケ大会で優勝をさらったという。なじみ客の提案で店名につけた。

 「月に恋するよりも、あなたは遠くて…」。しのぶさんのハスキーな歌声は、桂銀淑さんに似て切ない。ところで「ごめんね」はどんな意味?

 店は15年ほど前まで繁華街にあったという。住民が郊外に流出するドーナツ化現象に合わせて、約500メートル南の郊外に移転した。「店が遠くなってごめんね、という思いを込めたのよ」。いたずらっぽく笑った。

この記事は2016年03月01日付で、内容は当時のものです。

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