迷惑施設が宝生む 佐賀市下水浄化センターの試み<下>経費減やメタンガス発電 工夫次々 委託超えた連携 力に

 徹底的に使う人の立場になって考えることで、下水処理時に発生する“迷惑施設”の汚泥と排水を「宝の堆肥と宝の水」に変えた佐賀市西与賀町の市下水浄化センター。その裏には、共に働く周囲との連携があった。

 ■汚泥の質も向上

 資源循環の理念は大事でも、高コスト態勢では意義が薄れる。その点はどうか。

 2005年と07年に6町1村が加わって誕生した新佐賀市。旧町には二つの下水浄化処理施設の建設計画があったが、全て同センターが引き受け、新たな施設の造成費など約46億円と、年間1億2千万円の維持管理費が不要になった。

 ただ、流れ込む下水の増加は、発生する汚泥の量、そして設備の増設や浄化工程で汚泥脱水のために使う薬剤(凝集剤)の使用量も増えることを意味する。

 事実、1日の下水処理量は12年度で約5万トンと、05年度比で約4割増えた。ところが凝集剤の使用量は、汚水を浄化する微生物のコントロールなどの工夫で30%減。年3500万円ほどの薬剤費を削減すると同時に、汚泥の質も向上した。

 ■存在意義を共有

 下水を集め、微生物の力を借りて浄化し、下流に流す-。下水処理施設の仕組みは全国どこもほぼ同じといっていい。なのになぜ佐賀市だけが、画期的な取り組みを実現できたのか。

 同センターの場合、運用管理は市が行い、実務は委託業者が担当する。業務改革に当たり、市環境部環境調整監の前田純二さん(63)たちがまず取り組んだのが、現場を一番よく知る彼らとの話し合いだった。

 業務委託とは、組織と組織の契約の世界。委託された側は、その範囲をはみ出さず、淡々と指示通りの業務をこなしておけば失敗はないし、責任を問われることはない。だが、そうした受け身の姿勢からは、次の工程を考えた前向きなアイデアは生まれにくい。

 そこで前田さんたちが行ったのが、発注者も委託側も「同じ船に乗っている」考え方の醸成。センターの存在意義を皆で共有するとともに、最も現場を知る人々から提案が生まれるような雰囲気づくりに努めた。

 現場の実務者たちは、野菜作りの講習会やノリ養殖者との勉強会にも参加。センター内の畑では実際に野菜を育てた。「仕事」の範囲を踏み越えて取り組んだ果実が、市民に歓迎される汚泥堆肥と排水といえる。

 周辺に原料のにおいが漏れないよう締め切った堆肥の製造施設は、発酵熱で暑く、湿度も高い。過酷な環境下での仕事である。だが「市民が汚泥堆肥でこんな野菜がとれたと持ってきてくれる。良い堆肥を作らねばと、働くわれわれの士気も上がった」。堆肥製造に携わる「S&K佐賀」の業務監理責任者、川口公二所長(40)は力を込める。

 水もそう。「決められた基準内で、季節によって放流する排水の中の窒素量を調整する細かな技術も、水処理の向こう側にいるノリ養殖者の顔が見えたからこそできた名人芸」。関係者は、一連の浄化システムの運転・管理を24時間態勢で請け負う「キュウセツAQUA・佐賀事業所」(矢ケ部憲治所長)をたたえる。

 ■進化とどまらず 

 センターの“進化”はこれだけにとどまらない。その一つが、汚泥の濃縮過程で微生物が発生するメタンガスを利用した発電だ。

 発電設備は特注品ではなく、汎用(はんよう)の小型発電機を並べて使ったため、設備費は当初の見積もりに比べて3分の1ほどに削減できた。平均稼働率も平均97%とほぼフル回転。センター内で使う電力の43%を賄うことで、設備費も3~4年で回収できる見込みだ。

 市内にある食品メーカー「味の素」九州工場との連携も面白い。食品を製造する際の副産物として出る微生物「P菌体」汚泥を、大量の化石燃料を使って乾燥し、肥料化していた同社。試しにP菌体をセンターの汚泥堆肥作りに利用したところ、堆肥の質が向上することが実証できた。「Pちゃん肥料」という名称で、近く頒布も始まる。

 P菌体は木くずと一緒にメタンガス発生システムに組み込めば、発生量が倍増する可能性もある。「実証はこれからだが、市の全面積の42%にも達する森林を木質バイオマスとして生かす創エネの道筋も見えてきた」と前田さんは語る。

 同センターのシステムは、ごく標準的な工程に運用上の工夫を加えたローテク。だが、沖縄県宮古島市のようにすぐに取り入れようとする自治体は極めてまれで、視察して帰るだけの自治体がほとんどだという。

 結局は、それを運用する「人」に全てかかっているということなのだろう。

 今月、同センターは日本水大賞委員会(事務局・日本河川協会)が選定する
第15回日本水大賞で、未来開拓賞を受けた。表彰理由は「地域に密着した資源循環型下水処理の実現」だった。 ((上)は24日掲載)


=2013/07/31付 西日本新聞朝刊=

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