「滑り」代行 受験生応援 センター試験 熊大名物今年も 冷笑に負けず…ゆるく真面目に!? 熊本県

 14日早朝、大学入試センター試験の会場となった熊本市の熊本大。「あなたに代わって滑りまーす!」。法学部3年の村山温志さん(20)たちが大声を張り上げた。「滑る」「転ぶ」が禁句の受験生たちに代わって、現役学生が大げさに滑って転ぶ「代行サービス」だ。頬を刺す冷たい風と受験生の冷たい目線もどこ吹く風。滑り倒してめげない彼らを何が突き動かすのか-。

 夜が明けきらない午前7時すぎ、熊本大の正門前。「滑り代行始めました」。胸元にプレートを掲げた学生6人が、どこかぎこちない笑顔で叫んでいた。マスク姿や参考書を開いた受験生たちは、目を合わさないよう、うつむき加減で通り過ぎる。そりゃそうだ。人生を懸けた大事な一日なんだもの。

 「あのう、滑ってもらえますか」。約40分後、小柄な女子高生2人から声が掛かった。村山さんは、勢いよくコートを脱ぐ。「滑りまーす」。しかし-。

 野球のスライディングをまねたが、石畳の地面は思ったより滑らず、尻もち。足を広げて「派手にこけた感」を演出するも、女子高生は冷たい言い方で「受ける」と苦笑い。気まずい空気が流れた。

 村山さんは福岡県那珂川町出身で熊本大に現役合格した。メンバーによると、素顔は至って真面目で、むしろ地味なくらい。講義は休まず、単位取得は順調だ。休日はアルバイト以外はあまり外出しない。インターネットで動画やゲームをしたり、ツイッターで漫画や映画のことを「どうでもいい感じ」でつぶやいたりして一日は過ぎるとか。

 学生有志による「滑り代行サービス」は、先輩から後輩へと受け継がれ、今年で6年目。参加した男女6人は、いずれも純朴そうな印象だ。なぜ、滑るのかを村山さんに改めて聞いた。

 「そりゃ恥ずかしいですよ。自分が受験生なら避けますね。でも、一度滑ると恥ずかしさは消える。年1回くらい、ばかをしてもいいかなって。何となく」。うーん。分かるような、分からないような。「誰もやってないことだし、家にいるよりは何となく思い出になるかなと」。何となくと言われても…。

 聞けば、今回の代行サービスを実施するかしないかは、11日まで決まってなかったという。「滑り代行したい人いません??」。直前になって、メンバーの一人がツイッターでこうつぶやき、何となく6人が集まった。「伝統を絶やしてはいけない」などという前時代的な“熱”はないのだ。

 彼ら世代の言葉を借りれば、その動機は「ゆるいノリ」「ゆるいつながり」。中学生ごろから会員制交流サイト(SNS)などのソーシャルメディアが当たり前に存在していた世代である。浅く、広く、程よい距離感が交友関係の特徴と言えそうだ。

 6人は約2時間で20回ほど滑って解散し、寄り道もせず散り散りに去っていった。正午からコンビニエンスストアでバイトの村山さんは「レジ打ちしながら『また黒歴史作っちゃった』って思うんでしょうね」とぽつり。「黒歴史」とは、ネットでよく使われる言い回しで「忘れたい、恥ずかしい過去」のような意味合いだという。

この記事は2017年01月15日付で、内容は当時のものです。

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