【こんにちは!あかちゃん 第8部】「産後うつ」と向き合う<4>公的支援 これから本腰

1カ月健診で助産師と話す金城良枝さん(左)。「産後ケア事業を利用したおかげで、心を落ち着かせて子どもと向き合えるようになりました」と笑顔で語る 拡大

1カ月健診で助産師と話す金城良枝さん(左)。「産後ケア事業を利用したおかげで、心を落ち着かせて子どもと向き合えるようになりました」と笑顔で語る

 子どもが泣きやまず、ついイライラする。私って母親失格? 「いいえ、当たり前ですよ」。すぐそばにいてくれた助産師の言葉に焦りが薄れていった-。

 鹿児島市の金城良枝さん(27)は6月20日、市内にある鹿児島中央助産院で第1子を産んだ。母子ともに順調で、通常通り6日間の入院。ただ、初めての子育てとあって、退院後を考えると不安の方が大きかった。出身は沖縄で頼れる実家はない。

 そこで、鹿児島市が1996年度から取り組んでいる宿泊型の産後ケア事業を利用することにした。産後の体調や育児に不安のある母親が、市の委託した施設で子どもと一緒に寝泊まりし、体を休めたり、授乳などの育児指導を受けたりできる。1日の利用料は1万8千円で、市が半額補助。最長で14日間利用できる。

 鹿児島中央助産院は委託施設の一つで、金城さんは退院後もとどまり、施設内にある病室で過ごすことになった。別室に助産師が24時間常駐しており、深夜に子どもと二人きりでも心細くない。乳腺炎で高熱が出たときは子どもを預かってもらい、適切な処置を受けられた。

 「おかげで心を落ち着かせて子どもと向き合えるようになりました」。市内には委託先が二つあり、昨年度の1年間で計57人が産後ケア事業を利用している。院長の上ノ町美代子さん(54)は「最近は実家の母親も仕事を持っていたりして頼れない人が少なくありません。助産所でケアを受けることで技術が向上し、精神的にも安定して自信が付く。楽しく育児をスタートさせてくれたら」と願っている。

 ただ、こうした宿泊型の産後ケア事業に取り組む市町村は限られる。厚生労働省の研究班が行った昨年度の調査によると、回答のあった786自治体のうち、わずか16市町村(2%)しか実施していなかった。

 産後の支援には、助産師や保健師による訪問、ヘルパーを派遣する家事援助などさまざまな方法がある。中でも宿泊型については、調査に携わった国立保健医療科学院の特命統括研究官、福島富士子さんが「経験のない夜泣きや深夜の授乳にも24時間態勢でサポートすることでストレスを緩和でき、産後うつの予防や児童虐待の対策にもなる」と重要性を指摘する。

 ところが「日本では産後ケアは個人に任され、産後の女性を継続的に見る所が手薄になっていた」(福島さん)という実情がある。また、ある自治体の担当者は「里帰り出産ができない人が増えてニーズは高まっているのに、夜勤体制をとれる施設がなく、委託先が見つからない」と受け皿不足の課題を挙げる。

 そこで今年5月、有識者による政府の作業部会「少子化危機突破タスクフォース」が提言をまとめ、この中で宿泊型も含めた産後ケア事業の強化を求めた。これを受けて厚労省は「モデル事業を2014年度に実施したい」(母子保健課)としている。

 ようやく国も重い腰を上げつつあるが、中身についての具体的な議論はこれからだ。福島さんは「家庭の経済力や地域に関係なく、誰でもサービスが受けられる仕組みにすることが大切です」と話している。

 産後ケアを終えて9日後の7月中旬、金城さんは1カ月健診のため、子どもを抱いて鹿児島中央助産院を再び訪れた。「休憩は取れている?」「そこまで疲れてないから大丈夫です」。助産師の問い掛けに、金城さんは笑顔で答えていた。

 国や自治体が産後ケアにどこまで本腰を入れるか。注視していきたい。

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 ●メモ=産後ケアの公的事業

 産後の母体の回復や育児不安の解消などが目的。厚生労働省は、1995~2011年度まで名称を変えながら補助事業として実施してきた。出産後の産婦と新生児を対象に、助産所などの施設で原則7日間、宿泊や通所で、母体や乳房の管理、沐浴(もくよく)や授乳といった育児指導を行う。昨年度から一般財源化。自治体独自の事業もあり、委託を受けた事業者(ヘルパー)が出産後の家庭を訪問し、家事や育児援助を行っているところもある。


=2013/08/09付 西日本新聞朝刊=

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