九州大学の「自炊塾」<上> 「習慣化」へチャレンジ 未経験の学生 意識に変化

講義で習った手順通りに自宅でナムルを作る植村さん 拡大

講義で習った手順通りに自宅でナムルを作る植村さん

 コンビニやファストフードに頼らず、自分で料理を作る暮らしを目指す九州大学の少人数セミナー「自炊塾」。本年度から1年生を対象に開講し「出来合いばかりの生活はしたくない」「節約になる」などの動機で、定員の5倍の受講希望があった。ほとんどは、まともに台所に立った経験のない学生たち。週1回(全15回)の講義を通し、彼らはどう変化したのか。21日付と2回に分けてリポートする。

■みそ汁が定番

 「夕方には帰省するのでお昼はあるもので済ませます」。夏休みに入る8月上旬。福岡市西区の学生マンションに住む農学部の植村涼(すずみ)さん(19)は、冷蔵庫からニンジンを取り出すと、台所に立って細切りにし始めた。「少し前までは根菜の切り方も分からなかった」と笑いながら、ニンジンを炒めてごま油と塩で調味。いりごまを加えると、ナムルの出来上がりだ。

 作り方は自炊塾の講義で習った。「常備菜になるし、よく作ります。最初は毎食毎食、献立を考えていたからきつかったけれど、作り置きを覚えて楽になりました。1カ月の食費は、自炊をしてなくて飲み物も買う人より、1万円くらい安いです」。朝食は「ご飯、みそ汁、納豆、前日の残り」という献立が定番化。悩まない分、準備も苦ではないそうだ。

 そういう彼女も、高校の調理実習では包丁の背でキュウリを切ろうとしたほど台所経験がなく「何もできない自分を変えたくて自炊塾を受講した」と話す。

■社会の有り様

 自炊塾は、全学部1年生対象の少人数セミナーで、前期は女子13人、男子16人が受講した。全15回で2単位。料理研究家らをゲスト講師に招き、だし文化や発酵食品の大切さ、身土不二などを幅広く学ぶ。評価は自炊の状況を重視。後期は新たに学生を募る。

 担当教官は農学部助教の比良松道一さん(園芸学)。「ただ作れればいいのではない。何をどう食べるべきかも考えさせたい」。講義では加工食品の原材料の見方も教えた。食は、自分や将来の家族の健康にとって重要なこと。そして「食にまつわる消費行動が環境や農業、経済、地域文化といった社会の有り様にもつながる」との思いがあるからだ。

■「ぬかみそ?」

 実際に講義をのぞいてみた。その日のゲスト講師は料理研究家の北川みどりさんで、調味料の代表格「みそ」について学んでいた。

 「20代のころは外食ばかりでよく体調を崩していたけれど、初めてみそを手作りしたとき、おいしくて感動しました。みそ汁を毎日食べ始めて体も強くなったんですよ」と、みその魅力を語る北川さん。前の講義では、米や麦などみその種類の説明を受けて「ぬかみそは?」と質問するほど自炊経験に乏しい学生たちだが、実演が始まると、身を乗り出して北川さんの手さばきを注視した。

 蜂蜜みそ、豚みそ、お湯で溶くだけでみそ汁ができる「みそ玉」。伝授された作り方を覚えようと真剣な目を向ける姿に、学生たちの意欲がうかがえた。

■親に頼り切り

 だからといって、大学進学で独り立ちするのに備えて、実家で料理を習ったという声は聞かれなかった。せいぜい「入学直前にポイントだけ教わった」という程度。植村さんにしても「母から『勉強や部活を頑張ってくれたらいいよ』と言われ、家事はずっと頼り切りでした」と振り返る。

 やる気はあっても、台所に立つ機会を持たなかった学生たち。そのニーズに応えようと自炊塾を開いた比良松さんは「学生はいずれ子育てをする側になる。今のうちに自炊を習慣化させたい」と狙いを語る。

 とはいえ、わずか週1回の講座で身に付くものなのか…。そこで比良松さんが思い立ったのが、インターネットの交流サイト「フェイスブック」の活用だった。

■授業スケジュール

(1)「理想の食生活」とは?

(2)「命」とは?─循環の視点

(3)「1日の食費」いくらで暮らせる?─食費チェック

(4)「味覚」とは?─加工食品の向こう側

(5)「食べものの記憶」とは?─家庭料理の魅力

(6)「だし」とは?─食文化とミネラル欠乏

(7)「伝えたい味」とは?─みそ汁の魅力

(8)「おいしい」とは?─食べものの視点、食べ方の視点

(9)「自炊の難しさ」とは?─長続きの極意

(10)「糀(こうじ)」とは?─糀料理の魅力

(11)「郷土料理」とは?─農村食の魅力

(12)「醤油(しょうゆ)と味噌(みそ)」とは?─発酵食品の魅力

(13)「きれいな食べ方」とは?─食の品格

(14)「健康に生きる」とは?─身土不二、咀嚼(そしゃく)

(15)「理想の食生活」とは?─私のビフォー&アフター

【調理実習】6月上旬に3人の料理研究家が3回実施。そのうち2回を受講。


=2013/08/14付 西日本新聞朝刊=

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