不思議いっぱい日吉神社 博多区・比恵、山王界隈 時間ゆったり流れる街 福岡県

 ●痛みサル?「神使猿像」 なぜか傾いた手水舎

 JR博多駅から路線バスで10分足らず。福岡市博多区の比恵・山王地区は、都心近くに位置しながら都会の喧噪(けんそう)とは無縁のゆったりとした街だ。ジョギングやウオーキングの市民が行き交う山王公園。エピソード満載の日吉神社。街中をふらりと歩けば、長い時の流れの中で、ここで暮らした人々の営みが浮かび上がってくる。

 山王公園の一画。クスの木々に囲まれた日吉神社は昔、滋賀県の日吉大社から祭神を勧請したと伝えられるが、同神社の日吉克義宮司(64)は「正確な成立年代は分からない」。

 日吉大社と言えば山王信仰。日吉はかつて「ひえ」とも読まれ、博多区の「比恵」「山王」も「日吉神社にちなんだ地名」と日吉宮司。それを裏付けるように参道の鳥居には「元禄十年」の日付とともに「比睿邑」の文字が刻まれていた。

 日吉の祭神の使いは「神猿(まさる)」と呼ばれ、博多の日吉神社も猿にちなんだ事物が目立つ。拝殿には猿の絵馬が飾られ、安置された「神使猿像」は、体が痛む参拝者が像の同じ部分をさすると快癒するという言い伝えも。拝殿が開放される午前7時には近隣のお年寄りが訪れるという。ならばと膝痛持ちの記者がさっそく像の膝をひとさすり。御利益は体感できなかったが、「信ぜよ、さすれば痛みサル」ということかと納得。

 境内を歩くと、参拝者が手や口を清める手水舎の様子がどこか変。4本の柱の長さが見るからにふぞろいで「ピサの斜塔」のように傾いている。日吉宮司は「明らかに意図的に傾けて建てられたもの」とみるが、理由は分からない。「福岡沖地震にもビクともせんやった」と日吉宮司。そう言われると、不安定に傾いた手水舎が何だか必死に地面に踏ん張っているように見えてくるから不思議だ。

   ◇   ◇

 この地域の歴史は古い。弥生前期には人々が住んだと考えられ、比恵遺跡群からは青銅器などが出土している。山王公園から筑紫通りをはさんで歩いて数分。県指定史跡「比恵環溝住居遺跡」は一辺約10メートルの環溝跡が復元され、弥生の暮らしが目に浮かぶようだ。

 公園に戻る道すがら、古びた喫茶店「佳門(かもん)」が目に留まった。中村静江さん(84)は夫を亡くした2年前から一人で店を守る。長崎県佐世保市出身で「若いころは夫と一緒にベース(米軍基地)で働いていた」。当時から週休2日。「親方日の丸ならぬ親方星条旗で待遇は最高。アメリカは進んでいた」と振り返る。

 店を出して40年余。「佳門」は英語の「COME ON」。基地時代にはやった江利チエミの「カモナマイハウス」(家へおいでよ)から千客万来を願ってつけたという。

 苦楽を共にした夫が倒れ店じまいも考えたが、「客がなくても開けとくだけ開けとき」という息子の言葉に背中を押された。今は、メニューは飲み物だけで日・祝日は休み。「もう無理せんと決めたんよ」と中村さん。気のせいかコーヒーは米国のダウンタウンのカフェで味わうような素朴な香り。屈託なく身の上を話す笑顔に、多くの日本人が必死に生きた戦後史が重なった。

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 公園を北に抜けた東比恵で「アトリエ彗」という看板の青果店を見つけた。本当の店名は「高嶋青果」。店主の高嶋幾雄さん(81)は「これはうちが隣地から移ってくる前にあった花屋の名。あと2年くらいで店を閉めるけん、そのままにしとると」と笑う。小さいが、新鮮さと白菜漬けのうまさが自慢の店だ。

 この街に来て半世紀。今は精肉店など数軒が残るだけの一帯も、昔は50店近くがひしめく市場だったという。「博多駅も福岡空港もすごく近い。客がどんどん増えると思ったが、逆だった」。利便性は単身や共働きの住民を呼び、昼の買い物客は減った。高嶋さんは「こげん売れんようになるとは…。これも時代の流れかねぇ」とため息をつく。

 始まりがあれば終わりもある。人々の思いとは別に変貌する街。歴史の無情にやるせなさを感じながら帰りの地下鉄に乗った。

 ●人気復活の万年筆ずらり 評判の大型文具店

 山王公園近くの筑紫通り沿いにある「はかた文具館」は開店24年目。インターネット通販の影響などで「街の文具屋さん」が減少傾向をたどる中「何でもそろう」と評判の大型店だ。

 現在力を入れているのが万年筆。ショーケースにはパーカー、パイロット、プラチナなど懐かしいブランドがずらり。

 かつて「プレゼントの定番」と言われた万年筆。すっかり“歴史的筆記具”の仲間入りをしたかと思っていたが「最近は低価格な商品も出て、使ってみたいという人が増えてきた」と石谷堅治店長(53)。「万年筆は書く人の個性が出やすく、自分らしい字を書くことができる筆記具。若い人に積極的に使ってほしい」と話す。同店=092(441)7009。

この記事は2017年03月25日付で、内容は当時のものです。

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