貧しさ原点の「人権派」 北朝鮮との融和目指す 故盧武鉉氏の「宿題」抱え

 韓国憲政史上初の大統領罷免劇の先頭に立ち続けた革新系最大政党「共に民主党」の文在寅(ムンジェイン)氏が9日、大統領選で当選を確実にした。親子2代続けて大統領の座に座った朴槿恵(パククネ)被告=収賄罪などで起訴=と、巨大財閥サムスングループの経営トップ李在鎔(イジェヨン)被告=贈賄罪で起訴=との癒着事件に対する怒りの源流は、事件の主役たちとは対照的な生い立ちにある。

 「給食を受け取る器さえなく、友人から器のふたを借りて食べた」。文氏の自伝などによると、朝鮮戦争中、北朝鮮側から韓国に避難した両親は商売が不得手だったという。子どもの頃に裕福な家庭との格差を肌で感じ「世の中の不公平さを強く感じた」。大学進学後は軍事政権の朴正熙(パクチョンヒ)政権に反発する民主運動に身を投じ、2度拘束された。2度目の拘束中に司法試験の合格通知を受け取ったことはよく知られている。

 弁護士駆け出し時代の故盧武鉉(ノムヒョン)氏との出会いが、自身の人生を大きく変えた。釜山に共同事務所を構え、無料で労働相談などに応じる「人権派」として汗を流したが、盧氏が政治家に転身して2003年に大統領に就任すると、請われて大統領府民情首席秘書官、秘書室長として支えた。

 「政治家になるつもりはなかった」はずだが、盟友の盧氏が、親族らの不正献金疑惑捜査中の09年に自殺。その葬儀を取り仕切った後、「彼が残した宿題で身動きが取れなくなった」と覚悟を決めて政界入り。以来、一貫して革新政党の中心に立って政権奪回を目指してきた。

 自らのルーツともいえる北朝鮮との融和を訴え、韓国社会のひずみや、経済格差を生み出した親日的な政権、財閥支配構造の見直しを訴え続けた半生。「被害者の理解が得られていない」として旧日本軍の従軍慰安婦問題を巡る日韓合意に反対するのも、そうしたぶれない考えがある。 (ソウル曽山茂志)

 「全国民の大統領になる」 文氏勝利宣言

 【ソウル竹次稔】大統領選を制した文在寅(ムンジェイン)氏は9日午後11時45分ごろ、ソウル市中心部の光化門広場に姿を見せた。勝利宣言の場に選んだのは、朴槿恵(パククネ)前大統領の問題を追及するため、国民による「ろうそく集会」が昨秋から行われたメイン会場。今回の大統領選の原点とも言えるところだ。

 深夜にもかかわらず広場は支援者で埋め尽くされた。「ムンジェイン! ムンジェイン!」。何度も繰り返された支援者からの声援が、静まりかえった休日の街にこだまし、文氏も笑顔で両手を広げた。

 韓国国民が選んだ新たな指導者は語りかけるように話した。「私を支持しなかった方々にも仕え、統合する大統領になる。国民だけを見て、正しい道へ進み、偉大な韓国の誇らしい大統領になる」と力を込め、選挙戦での党派の対立を乗り越えることを誓った。

 本格的な選挙期間は約3週間。だが会場は、ろうそく集会から始まった半年以上にも及ぶ政治の混乱が、ようやく収束した喜びに包まれているようだった。

 広場を訪れた50代男性は「文在寅は経済格差を是正し、弱者に優しい社会を実現してくれるはずだ」と熱く語った。

 米国、対北朝鮮政策を注視

 【ワシントン田中伸幸】韓国大統領選で文在寅氏の当選が確実になったことを受け、トランプ米政権は、緊迫化する北朝鮮情勢を巡って対話や経済交流による解決を訴える文氏の下、韓国がどう政策転換するかを見極めつつ、強固な米韓同盟の構築を急ぐとみられる。

 トランプ政権はこれまで、北朝鮮に対し強硬姿勢を取っていた韓国と緊密に連携を取りながら、空母を朝鮮半島付近に派遣するなど軍事的圧力を強化。一方で対話の道も探る硬軟両様の戦略を取ってきた。文氏が対北朝鮮で融和路線に大きく傾けば、戦略の見直しを迫られかねない。

 米軍が韓国に配備した最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」を巡っては、トランプ大統領が韓国側に費用負担を求める発言をしたことに韓国内に反発が広がっており、文新政権との火種になる可能性もある。

 中国、THAAD見直し期待

 【北京・相本康一】中国の習近平指導部は、米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備に強く反発し、経済分野などで「圧力」をかけてきた。韓国大統領選で9日、当選が確実になった文在寅氏に対しても、THAADの運用停止を働きかけるとみられる。

 朴槿恵前大統領時代、一時「蜜月」だった中韓関係は、THAAD配備問題をきっかけに悪化。中国当局は国民に韓国旅行の中止を呼び掛けたほか、韓国ロッテグループの中国国内の商業施設を相次いで営業停止にした。THAAD配備は「中国の安全を損なう」と受け止めている。

 中国メディアは同日、THAAD配備について「次期政権に判断を委ねるべきだ」とした文氏の発言を報じた。朝鮮半島情勢が緊迫する中、習指導部は文氏の対中姿勢を慎重に見極める構えとみられる。

この記事は2017年05月10日付で、内容は当時のものです。

PR

社会 アクセスランキング

PR

注目のテーマ