男性の性犯罪被害を考える<下>はびこる偏見「誰か信じて」 相談・支援する態勢充実を

 被害者を女性に限っていた「強姦(ごうかん)罪」を廃止し、男性も対象とする「強制性交等罪」を新設した改正刑法が13日に施行される。新たに男性も女性と同等に性被害者として認められるようになった。しかし現段階では、(上)で書いたように、男性の被害者に対して支援態勢はほとんど整っていない。「男性が性被害に遭うはずがない」など社会の偏見も根強く、課題は山積している。

 親友の男性から性的暴行を受けた大学生、小田雅人さん(22)=仮名=の精神科医によるカウンセリングは、2時間半に及んだ。医師は「大変でしたね」といたわりの言葉を掛け、カウンセリングを勧めた友人のことを褒め、「あなたは一人じゃない」と告げた。胃液を吐き続けていた小田さんは、その夜、被害後初めて食事を取れた。

 友人や相談先の人たちは、支えてくれる人と傷つける人にはっきり分かれた。その境界線は、被害を信じたかどうか、だった。

 小田さんは人との接触に恐怖を感じたり、性器などを連想させる食べ物が口にできなくなったりした。友人たちに打ち明けて理解を求めると、半数は「話を盛ってるだろ」と信じない。「そのまま男を好きになれば」とも言われた。無理解から放たれた言葉は、心に深く突き刺さった。

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 男性の性被害者の自助グループ「RANKA」主宰の玄野(くろの)武人さんは、「男性は性被害に遭わない」「性被害に遭っても傷つかない」「傷ついても支援などいらない」という三つの強固な偏見が、男性被害がなかなか信じてもらえない根底にあるとみる。

 自身も女性3人から性被害を受け、回復に16年かかった。年に1度、男性被害者の集いを開く。2011年には「男性の性被害者から相談を受ける電話相談員のための指針」を作成した。受診すべき診療科など実務で役立つ情報のほか、社会に広がっている「加害者は同性愛の男性(ばかり)」「勃起や射精は合意の印」などのイメージは偏見だと、丁寧に説明している。

 被害者の中には「性被害は男の恥だ」と思い込んで打ち明けられない人も多いという。玄野さんは「支援で大切なのは、被害を理解してくれる家族や友人の存在。それを得て初めて、回復への決意ができる」と語る。理解を広げるためにも、性被害者の窓口である「ワンストップ支援センター」の啓発活動に期待する。

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 支援センターの一つ、福岡県の「性暴力被害者支援センター・ふくおか」では、玄野さんの指針を参考に職員研修をしている。昨年末にはウェブサイトに男性被害者専用のページを設けた。こうした男性向けの取り組みに力を入れているセンターは、全国的にも珍しいという。

 しかし昨年度の新規の電話相談362件のうち、男性は44件で、面談やカウンセリングなどに至った例はない。浦尚子センター長は「話を聞いてほしいのに、被害に遭ったと言いづらいという葛藤があるのではないか。支援につなげられるよう研修し、啓発にも力を入れたい」と語る。

 センターは財政面での厳しさも抱える。福岡県からの委託費は、電話相談業務など限定的。相談員の研修などは民間団体からの助成金などでまかない、相談員の人件費を抑制して持ちこたえているのが現状だ。

 全国のセンターも資金繰りに苦慮しており、政府は本年度、交付金を新設した。福岡県も活用予定だ。浦センター長は「法改正を機にニーズが高まる。態勢を充実させるには財政的な下支えも必要だ」と語る。


 2017/07/12付 西日本新聞朝刊

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