九州大学の「自炊塾」<下> 「共食」でつながり実感 写真投稿、「弁当の日」刺激に

「1人の食事は寂しい」。フェイスブックの投稿でつながることは、自炊の刺激になる 拡大

「1人の食事は寂しい」。フェイスブックの投稿でつながることは、自炊の刺激になる

料理を持ち寄る「弁当の日」は学生にとって貴重な共食の場となっている

 自分で料理をする生活を習慣化しようと、九州大学が本年度前期から初めて開講した1年生対象のセミナー「自炊塾」(受講生29人)。3カ月間の講義(全15回)を通して学生たちが得たものは、調理技術だけでなく「誰かと食べる幸せ」「親への感謝」など心の面も大きかった。

 「ブリが半額だったのでブリ大根に挑戦してみました!」‐。この夏、インターネットの交流サイト「フェイスブック(FB)」に、受講生で経済学部の野口裕介さん(20)が書き込んだ投稿だ。ご飯、ブリ大根、ひじきの煮物を並べた写真付き。みそ汁には、彩りにネギが散らしてある。

 ■仮想の場で意欲

 自炊塾では、授業リポートはもちろん、日ごろの自炊状況がより重視される。それを把握するため、担当教官で農学部助教の比良松道一さん(園芸学)はFBを活用した。学生は写真付きで料理を投稿し、ほかの受講生やゲスト講師といった登録メンバー全員が見る仕組みになっている。

 「学生は1人暮らしが多い。仮想の“共食”の場をつくることで意欲が高まれば」と比良松さん。その狙いは的中した。「みんなの目は気になりますよ」と野口さん。農学部の植村涼さん(19)も「最初はできなくてイライラしたけど、みんなの投稿を見て頑張れました」と振り返る。

 見た目を意識して、マグカップにみそ汁をよそっていた学生が汁わんをそろえたり、箸置きを使う学生が現れたり。ゲスト講師などから「おいしそう!」「配膳はご飯が左、汁物が右ですよ」といった書き込みもあり、盛り付けの工夫も見られるようになった。

 ■誰かのために

 現実世界でも“共食”の場を整えた。週1回、「常備菜」「いつも作らないもの」といったテーマを決めて1品ずつ大学に持ち寄る「弁当の日」だ。

 自由参加だが、受講生以外も含む20~30人が昼休みに集まり、手料理をバイキング方式で食べ合う。南蛮漬け、春巻き、冷しゃぶ、オムライス、ニンジンサラダ…。「喜ばれたくて気合が入る」というだけあって力作ぞろいだ。

 欠かさず参加してきた歯学部の稲留ゆきさん(18)は「ほかの人の料理を食べる機会が少ないので、味つけなど勉強になるし、楽しい」。食べてもらえるか心配そうに見つめる学生、空になった容器をうれしそうに片付ける学生…。こうした機会を重ねて少し自信がついたのか、自宅でも友人と食卓を囲む学生が増えてきた。

 「誰かのために作るって1人で食べるよりいい」「今になって親のすごさが分かった」‐。初めて作る側に立った学生たちは、食が結ぶつながりの温かさにも気付き始めたようだった。

 ■授業の枠超え

 「食卓は幸せの原点。学生にも早く気付いてほしい」。自炊塾の立ち上げには講師陣の思いがあった。

 ゲスト講師で料理研究家の幾田淳子さんは、病院の栄養士だったころ「母の料理を食べたい」と言って亡くなるがん患者を何人も見送った。

 比良松さん自身は「以前は妻の味付けを批評してばかりだった」と振り返る。香川県の元小学校長、竹下和男さんが提唱する「子どもが作る“弁当の日”」との出合いが転機となった。自分で弁当を作る小学生に刺激され、家族一緒に料理し始めると、会話が弾み、笑顔が増えた。

 人と人のつながりは、食を整える動機になる。比良松さんは、講義を終える学生たちに「後期の学生のためにも、先輩としてFBへの投稿や『弁当の日』への参加を続けてほしい」と呼びかけた。授業の枠を超えた自炊塾の挑戦は、始まったばかりだ。


=2013/08/21付 西日本新聞朝刊=

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