【道徳教育を考える】心見つめる手作り教材 福岡市照葉中 体験基に教師も模索

教え子の実話に基づく道徳の授業〈ひろよの弁当〉は「思いやり」「同情」などのキーワードを黒板に掲げながら進めていくという 拡大

教え子の実話に基づく道徳の授業〈ひろよの弁当〉は「思いやり」「同情」などのキーワードを黒板に掲げながら進めていくという

 続発するいじめの問題などを受け、文部科学省の有識者会議は、新たな道徳教育のあり方を検討している。人を思いやる心、命の大切さ、ルールを守る…。きれいごとではなく、しつけや説教でもなく、子どもたちの自己・他者理解、気づきにつなげる指導は容易ではない。道徳教育が小中学校に導入されて55年。教室ではどんな取り組みが進んでいるのだろうか。

 道徳は現在、学習指導要領上の正規教科ではないが、小中学校では主に担任教諭が毎週1時限、副教材を使い、道徳の授業を進めている。子どもたちの興味関心、理解を深めようと、手作りの教材で指導に当たる教諭も少なくない。

 福岡市立照葉(てりは)中学校の松元直史(なおし)教諭(53)は長年、身近な出来事を題材に、独自のプリントを作成し、道徳授業に取り組む。18年前に作った教材〈ひろよの弁当〉は、白血病で亡くなったある教え子の記憶が下地になっている。

 〈遠足にいつも、コンビニ店の百円おにぎりを持ってくる男子生徒がいた。両親共働きなどの事情があった。同級生のひろよは大柄で、言葉遣いも荒っぽかったが、遠足の数日前、男子生徒の机に寄ってきて『好きな先輩のために弁当作るから、あんたにもお弁当、作っちゃーけん』。弁当には、男子生徒が大好きな卵焼きとタコ形のウインナーが入っていた〉

 授業のテーマは「同情、哀れみと、思いやりの違い」。生徒によるロールプレイ(役割演技)なども導入し、男子生徒やひろよの心情に分け入る。

 コンビニのおにぎりを恥じることはないが、男子生徒の心の痛みにクラスの何人が気づいただろう。気づいたとして、自分だったらどう行動するだろう。ひろよはなぜ、そんな気持ちになれたのだろう…。

 博多弁こてこての教材は、実話の訴求力も加わり、生徒たちに問い掛ける。

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 現在勤務する照葉中では昨年10月、1年生2クラスの合同授業で、運動会を振り返り「本当のかっこよさって、何だろう? その人の顔を思い浮かべてみよう」と問い掛けた。

 生徒たちの多くが名前を挙げたのは、優勝者でもイケメンでもなかった。

 組み体操のピラミッド、最下段で弱音を吐かなかったA君。けがをして運動会に出られなかったけれど、声を張り上げ応援したBさん。後輩の頑張りを、自分のことのように喜んでくれたC先輩…。

 自信満々だった生徒たちは下を向き始める。

 松元さんの狙いはヒロイン、ヒーロー探しではなかった。その裏側にある「かっこ悪さ」の気づきだ。陰で悪口を言う、少しぐらいいいじゃないか、意見が合わない人を排除、見て見ぬふり(傍観者)、正義の味方気取り…。教師を含め、誰もが陥りがちな「みじめな自分」を見つめてもらいたかった。

 こうした授業と学校行事、日々の指導が連なり、いじめ加害の抑止力、傍観者を動かすインセンティブ(動機づけ)にもつながると考えている。

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 松元さんの専門教科は美術。「子どもたちは小学校高学年になると、絵の上手、下手を意識し始める。絵は自由なんだ、上手下手を超えた個性なんだ、って伝えているが、生徒にはなかなか通じない。じゃあ、なぜ、成績評価があるのかと。そうなんですね…。正しい絵なんて、存在しませんから。多様な価値や美徳がぶつかり合うこの時代、道徳教育も同じような難しさの中にある」

 自らの中学時代の苦い記憶なども生徒にさらけ出し、手探りの授業を続けているという松元さん。「家族愛なんて言葉に出合うと、ハッとしますよね。実は先生も一緒に悩み、学んでいるんですよ」

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 道徳教育の最前線で今、どんな模索が続いているのか、どこに向かおうとしているのか。現場や専門家を訪ね歩き、随時考える。次回は25日掲載。

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 ●教科化に是非論

 道徳教育をめぐっては、愛国心や公共の精神を盛り込んだ改正教育基本法が2006年度に施行。政府の教育再生実行会議は今年2月、心の教育の充実を掲げ、道徳を学習指導要領上の正規の教科として位置づけるよう、首相に提言した。道徳の教科化にあたっては、検定教科書を使っての指導▽児童生徒の成績評価▽中学校以上では指導免許を持つ専門教員の育成‐などの必要も生じ、道徳教育に検定や評価がなじむのかどうか、是非論がある。


=2013/09/17付 西日本新聞朝刊=

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