消費者・食の安全‐農家・収入安定 米直接売買 農業変える? 無農薬栽培や棚田保全も

フェイスブックを活用して「my農家制度」をスタートさせた中園由紀子さん 拡大

フェイスブックを活用して「my農家制度」をスタートさせた中園由紀子さん

実りの季節を迎えつつある福岡県八女市黒木町笠原地区の棚田

 無農薬や有機栽培など高付加価値な米について、消費者と農家が直接売買する動きが広がっている。安心・安全な米を食卓に迎えたい消費者ニーズ。安定した購入先があれば手間のかかる栽培にも踏み切れる農家の切実な思い。「相思相愛」の関係が育まれている。

 育児休業を取りながら、3歳の長女と生後10カ月の長男の育児に奮闘する中園由紀子さん(31)=福岡県春日市=は、長女が通う保育所の給食献立表を見て、がくぜんとした。揚げ物、ウインナー、缶詰、おやつにはケーキにチョコレート…。仕方がないとは思いつつも、こみ上げてくる不安と不満を抑えることができなかった。

 20代のころ、乱れた食生活で体調を崩した自身の経験から「食」に目覚めた。だからこそ、わが子には「ちゃんとしたもの」を食べさせたい思いが強い。保育所に玄米ご飯の導入を掛け合ったが、実現しなかった。母親仲間に賛同を呼びかけても、一緒に動いてくれることはなかった。

 「自分がやるしかない」。休日、夫と車で九州一円を巡った。「道の駅」で情報を仕入れるなどして農家を戸別訪問。多くの門前払いを受けながら、熱意が通じた福岡、佐賀、熊本の4農家と契約できた。今年8月には、インターネットの交流サイト・フェイスブック(FB)を活用して、無農薬と無肥料で栽培した玄米を農家から直接宅配してもらう「my農家制度」をスタートさせた。

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 農林水産省によると、2011年に出荷・販売された米約601万トンのうち、4割強の約351万トンは農協の取り扱いで、3割弱の約228万トンは消費者と農家の「直接売買」が占めていた。消費者の間で食の安全への意識が高まっている背景がある一方で、農家の熱視線も後押しする。

 平均的な米の価格は、1989年の1キロ当たり300円からほぼ変わらず、今では農協への売り渡し価格が約200円というのも珍しくない。平均的な生産コストは1キロ240円。大規模に生産すればコストも下がり利益は出る。だが、94%を占める5ヘクタール以下の小規模農家は、米を作ればほとんどが赤字になるのだ。

 中園さんの「my農家制度」では1キロ550~650円で購入する。契約農家の一人、渡辺義文さん(41)=熊本県菊池市=は「大切に作ったお米の良さをちゃんと理解して買ってくれる。ありがたい。やる気が出ます」と声を弾ませる。

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 消費者と農家の直接売買を地域おこしに生かす試みも出てきた。

 福岡県八女市黒木町の笠原地区。昨年7月の九州北部豪雨の影響で約50ヘクタールの棚田の2~3割が休耕田に。先祖代々の田んぼを何とか守ってきたお年寄りや兼業農家が、災害を機に経済的にはとっくに見合わなくなった棚田を手放そうという動きも広がる。

 「美しい棚田の景観を守り、農家がやる気を持って取り組むことができる仕組みをつくりたい」。棚田や森林の保全活動に取り組むボランティア団体「山村塾」は9月から、5年間継続して笠原地区で栽培した棚田米を購入してもらえる消費者の募集を始めた。1口「60キロ4万5千円」と「30キロ3万円」の2タイプ。11月から12回に分けて毎月1回発送する。

 新潟・魚沼産コシヒカリの60キロ平均2万4千円より高い。1キロ当たり750円の設定で、60キロの場合、3万円は農家の手取りで、残りの1万5千円は送料を含む棚田保全資金に役立てるという。

 「慣行栽培からの移行に不安を感じる農家もいますが、買い手があればやってみたいという人も多い。お互いの信頼関係をつくりながら末永く続けていきたいですね。この仕組みが広がれば農業全体が変わるはずだから」。山村塾の小森耕太さん(37)の言葉は、安全な食を求める消費者の覚悟を問うように聞こえた。

 ◇山村塾=0943(42)4300。


=2013/09/25付 西日本新聞朝刊=

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