【こんにちは!あかちゃん 第10部】「非婚で産む」ということ<4>婚外子が感じた「世間」

三四郎さんの「おやじ」が愛用していたカメラ。「いつもこれを持って追いかけてきた。中学生になったら恥ずかしくて、逃げ回っていたな」と振り返る 拡大

三四郎さんの「おやじ」が愛用していたカメラ。「いつもこれを持って追いかけてきた。中学生になったら恥ずかしくて、逃げ回っていたな」と振り返る

九州工業大学大学院佐藤直樹教授

 《結婚せずに出産した人、事実婚のパートナー関係が壊れた人…。それぞれの事情で非婚を選択したシングルマザーたち。一方で親を選べない子ども側は、婚外子という立場をどう受け止めているのだろう》

 「父ちゃんは戦死した」‐そう言える友達がうらやましかった。自分は「おるような、おらんような…。はっきり言えなかった」。

 福岡市に住む三四郎さん(72)=仮名=は、物心が付くころには「どこかよその家とは違う感じ」に気づいていた。「おやじ」は毎晩のように夕食後にやって来て数時間を過ごした。自分を膝に乗せ、いがぐり頭をなで回す。包み込むような優しさは父に違いない。だが誰も「お父さんだよ」と教えてくれなかった。

 両親からは大切にされた記憶しかない。「厳しく当たられたら反発もできたけれど、剣先を向けられなかったなあ」。一方、家の外では言いようのない視線を感じた。表だって何かを言われるわけではない。それなのに、会ったことのない異母きょうだいからも、さげすみの目でにらまれている気がした。ずっと拭い去れない弱みだった。

 三四郎さんが20歳を迎えると、両親は1週間だけ結婚した。就職や結婚での差別を心配して戸籍を「嫡出子」に変えたかったのだろう。「自分とおやじ、おふくろの間ではどうでもよかったが、対外的に具合が悪かった」。父はすぐに元妻と再婚した。父と2人の女性がどんな話し合いをしたのか、想像も及ばない。自分は恵まれていたと思う。

 「おやじ」と呼べたのは亡くなる数日前の一度きり。母にも結局、自分がどんなふうに生まれたのか聞けずじまいだった。聞くとかわいそうな気がして。

 非婚を選ばざるを得ない状況もある。愛情を持って子育てをすればいい。一方で、偏見の残る世に産み落としていいのか、産む自由などと軽々しく言っていいのか、とも思う。今の時代はどうなのだろうか。

 《結婚していない男女の子(婚外子)の遺産相続分を、婚姻関係にある夫婦の子の半分とした民法の規定。この点について、最高裁大法廷は今年9月、「法の下の平等を定めた憲法に反する」との判断を初めて示した》

 初の違憲判決は1993年に東京高裁で出された。婚外子の立場で原告だった中田千鶴子さん(東京)にも三四郎さんと似た記憶がある。「『なぜ私を産んだの? お父さんは誰?』と聞くこと自体が母を責めはしないかと、ずっと聞けなかった。単に事実を知りたいだけなのに」

 今も自分の生を肯定できない部分がある。「親の思いで子どもの価値や命の重さが変わってはならない。どんな事情で生まれた子だろうと、生まれてきたというだけで全て歓迎してあげられる社会であれば」。そのためにも、婚外子差別が法律に存在していてはならないと思う。

 婚姻外の妊娠によって社会的な非難にさらされ、父親が無責任な場合は養育費や中絶費も女性が負う。婚外子差別は子どもにとどまらず、男女がどんな関係を築いていくのか、日本人がどう生きるのかの問題ともいえる。中田さんは「国や法律が悪いというのは簡単。日々の暮らしで一人一人が子どもや弱者の側に立ち、考えて行動していかなくてはいけないと思います」と語っていた。

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 ●「無意識のルール」疑って 九州工業大学大学院 佐藤 直樹教授

 日本人は常に「世間」の評価にさらされ、縛られている‐そんな観点で社会を検証する九州工業大学大学院教授の佐藤直樹さん(世間学)に、なぜ日本では非婚での出産に抵抗感が根強いのか聞いた。

 ‐「世間」とは?

 「日本人が集団になると働く同調圧力です。みんなで守るべき暗黙のルールがあり、普通(常識)でないものを排除するため『空気を読め』と強迫する。結婚してから産むのがルールという空気に、非婚の母や婚外子は苦しみます」

 ‐子どもまで排除するのはどうして?

 「『家』の意識が関係します。結婚披露宴で『○家×家会場』と見かけるように、家制度は壊れても意識はしぶとく残っている。西欧は大人も子どもも一個人だが、日本では親子一体とみなされ、何かあれば家全体の責任を追及される。最近も、著名な司会者が30代の子どもの逮捕を世間に謝罪していました」

 ‐異なるものも排除することのない社会にしたい。

 「世間には良い面、悪い面があると認識し、無意識のルールにとらわれていないか、一人一人が問い直すことです。非婚の母も婚外子も、自分が悪いなんて思う必要はありません」


=2013/10/04付 西日本新聞朝刊=

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