【御三家筆頭 尾張徳川家の至宝】<4>青磁香炉 銘 千鳥 伝説を生む遺愛品

「青磁香炉銘千鳥」(大名物、豊臣秀吉・徳川家康所用、中国・南宋時代・13世紀、徳川美術館蔵) 拡大

「青磁香炉銘千鳥」(大名物、豊臣秀吉・徳川家康所用、中国・南宋時代・13世紀、徳川美術館蔵)

 足利将軍、信長、秀吉…往年の天下人たちが愛した名品が初代将軍家康のもとに集まった。家康は将軍職を秀忠に譲って駿府城に移った後も莫大(ばくだい)な財産を維持した。やがて家康の遺産は尾張・紀伊・水戸の御三家が分割相続した。これを「駿府御分物(すんぷおわけもの)」という。天下人の遺愛品が尾張徳川家に数多く伝わるゆえんだ。

 本展では家康の遺愛品が20点出品される。「青磁香炉 銘 千鳥」はその一つ。浮き上がった足を持つこの香炉。片足を上げるしぐさを見せる千鳥に見立て「千鳥形(ちどりがた)」と呼ばれる。茶人・武野紹鴎(じょうおう)、秀吉、家康そして尾張家初代義直の手に渡った。ふたは室町時代の金工師・後藤祐乗(ゆうじょう)の作とされ、愛らしい千鳥のつまみがある。この千鳥が後世に伝説を生む。

 秀吉の伝記「絵本太閤記」(江戸後期)によれば、天下の大泥棒・石川五右衛門が夜更けの伏見城に忍びこみ、熟睡する秀吉の命を奪おうとしたが、枕元にある香炉の千鳥が鳴き始め、御用になったという。秀吉の超人伝説の一つだ。

 ところが、五右衛門伝説をまとめた「賊禁秘誠談(ぞくきんひせいだん)」(江戸初期)によれば、彼のターゲットは秀吉の命ではなく枕元の香炉で、見事「音を出さず」に盗み取ったという。千鳥は鳴かなかったのだ。ではなぜ五右衛門が御用になったかといえば、うたた寝する番人の足を誤って踏んだからだとか。

 天下人の遺愛品は、何かとエピソードに事欠かない。

(九州国立博物館主任研究員・荒木和憲)


=2013/10/14付 西日本新聞朝刊=

PR

PR

注目のテーマ