【道徳教育を考える】臨床心理学者 中川美保子さん 意見言えぬ子 理解して 不安・葛藤に寄り添って

 感じたことを言葉で表現するのは、学習指導要領が掲げた言語活動充実の基本だ。だが、意見や思いを表現できない子に頭を痛めている学校も多い。意見を言えぬ子にどう向き合ったらいいか。スクールカウンセラー経験のある臨床心理学者で同志社女子大学特任教授の中川美保子さんに聞いた。

 小学校でスクールカウンセラーをやっていたときのこと。3年生の教室で、窓ガラスが割れる事件があった。

 隣のクラスの男子がやったのをA君が見たらしい-と聞いた担任。A君に問うと「そうかもしれない」と消え入るような声だ。そこにほかの子が「6年生じゃないの」と口を挟むと、A君は即座に「やっぱり知らない」。後は押し黙ったままで、頑として口を開かなかった。

 A君のように自分の思いを言えなかったり、人の意見に流されたりする子の存在が、先生たちの悩みの種になっている。

 ディベートをやろうとしても賛成、反対の意見より「どっちでもない」あいまいな意見のグループが多くて授業にならない。意見を決められない子が多く、学級会で多数決を何度もやり直さなければならない-など、さまざまである。

 そうした子ども心のうちを探ると「意見を言うと後でどうなるか」という不安や失敗恐怖が渦巻いていることが多い。

 実はA君も2年生の時、立ち入り禁止の所に入った級友の名を担任に告げ、級友たちから仲間外れにされたという心の傷を抱えていたことが後で分かった。

 過去の否定的体験から自信が持てず、意見を言わない、あるいは周囲の意見に乗っかって何とか学校生活を送っている子どもは少なくないのだ。

 ☆ ☆

 どうしたらいいか。

 小学校低学年なら言葉遊びを通してコミュニケーションのスキルを伸ばし、苦手を克服するという手も考えられる。しかし、友達との関係が濃密になり、臨機応変な対応が求められる高学年以上では、とてもそれだけでは済まない。

 親や先生が、彼らの抱える不安や葛藤に気付き、どう援助するかが問われているのだ。

 「人の顔色ばかりうかがわずに、自分の考えを持とう」「自分の意見に自信を持って」と言ったところで彼らは聞く耳を持たない。

 なぜなら、彼らにとっては、何とか学校生活を送るために「やっとの思い」で獲得したのが、自分の思いを表に出さなかったり、周囲の意見に同調することだったりするからだ。彼らなりの必死のサバイバルスキル(生き残る技術)なのだから、そう簡単に手放すはずもない。

 意見を言った方がいいのは分かっているけれど、できないのだ。

 そんな精いっぱいの状況で振る舞っている子に、大人がもっと頑張れというメッセージを発しても、必死な彼らに期待に応えるエネルギーは残されていない。

 大人に求められているのは、彼らのそんな心の動きに気付いて認めてやることだ。そうせざるを得ない事情に思いが至れば、追い詰めるのではなく、なぜそうなっているか、子どもに柔らかなまなざしを向けることができるようになるはずだ。

 ☆ ☆

 彼らが抱いている不安や葛藤にどうしたら寄り添えるか、考える余裕も出てくるだろう。

 孤立感に満ち満ちた子どもを、安心できる環境に包み込んでやるのが大人の仕事なのだ。

 支えられているという安心感を持てれば、子どもは大きなエネルギーを発揮できる。大切なのは、子どもたちのありのままを理解して、安心して失敗できる場をつくってやることだ。安心こそが、子どもが成長するための原動力なのである。

 子どもは他者に支えられて生きるという肝心なところを見失わないで、家庭や学校を「安心して居られる場」にしてほしい。

 ◇「道徳教育を考える」は随時掲載します。

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 同志社女子大学特任教授(学校臨床心理学)。大卒後、石川県で公立の中学、高校教諭。1999年からスクールカウンセラー。愛知教育大学教授を経て、現職。共著に「学校臨床」「不登校・ひきこもりと居場所」など。57年、金沢市生まれ。

=2013/10/22付 西日本新聞朝刊=

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