待機ゼロの町に企業保育所必要? 埼玉の山あい、従業員のため開設 制度に穴、園児取り合い懸念

 「待機児童ゼロの町にも企業主導型保育所ができている」。埼玉県小鹿野町の認可保育所園長から、そんな声が届いた。企業主導型保育所は、政府が待機児童対策の目玉として2016年度に始めた制度。助成金の手厚さから開設ラッシュが続くが、保育所に困っていない地域にまでなぜ? 調べてみると、制度設計の甘さが浮かび上がった。

 昨年4月、新たに企業主導型保育所が開園した小鹿野町は、秩父地方の山あいにある人口約1万1700人の町だ。

 「もう年寄りばっかり。一昨年生まれた子どもは40人ちょっとなのに、新たな保育所ねえ」。地元で生まれ育った自営業の男性(84)は不思議がる。園児を持つ女性(33)も「預け先が足りないとは聞いたことがない」と話した。

 町内の認可保育所は、町立2園、私立1園の計3園。他に3歳児からの町立幼稚園もある。子どもの数は減る一方で、町担当者は「少なくともここ十数年は待機児童はいない」という。

 開設したのは、町内で特別養護老人ホームなどを運営する社会福祉法人。担当者は「従業員が働きやすい職場環境のため、以前から柔軟に対応できる保育所が必要と思っていた」と説明する。同法人の保育所はゼロ~2歳児が対象。3500万円の整備費のうち2500万円は助成で賄った。従業員の子でなくても利用できる「地域枠」は、定員12人の半数の6人を上限に設定。昨年12月現在、在籍児は10人で、うち地域枠は2人という。保育料は月6千円。所得に応じて町が定める月4800~5万6千円の認可保育所の保育料より安くなる家庭も多い。

 地域枠は、国が「地域貢献」として推奨しているが、町側は困惑気味だ。住民課の黒沢功課長(60)は「制度上、町が(設置は)駄目だとは言えない」。町側は同法人に「従業員のための保育所なら、地域枠は目いっぱいは使わないように」と求めたという。

 情報を寄せた民間の小鹿野ひまわり保育園の稲葉寿子園長(65)は「子どもが減っているのに、園児の取り合いも起きかねない」と戸惑う。現に昨春、同園は定員60人に届かなかった。稲葉さんは昨年11月下旬、町議会に「待機児童がいない地域にむやみに造る許可をしない」よう政府に求める請願書を提出。「地域の実情を踏まえ、制度を見直してほしい」と訴える。

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 内閣府の担当者は「制度は従業員の多様な働き方を支援する目的もある」として、待機児童ゼロの地域でも助成に問題はないとの立場だ。本年度からは、地域枠を設ける場合、事前に自治体に相談し、保育需要を確認した旨を申告させるようにしたというが、自治体に設置を拒む権限はない。

 保育制度に詳しいジャーナリストの猪熊弘子さんは「地域の需要に関係なく認可外施設として容易に設置でき、審査や指導体制も問題が多い。制度設計に無理があった」と批判。「企業主導型は福祉だったはずの保育の市場化、ビジネス化を公に後押ししてしまった。せめて自治体が事前に審査できるよう、関与できる仕組みにするべきだ」と提言している。

(東京新聞「ニュースあなた発」)
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