(1)スプリンクラーがあれば… 惨事免れた設置病院

初期消火に威力を発揮するスプリンクラー 拡大

初期消火に威力を発揮するスプリンクラー

 10人が死亡した福岡市博多区の安部整形外科の火災では、熱や煙を感知して天井から自動的に水が出るスプリンクラーが設置されていなかったことが被害拡大の一因になった。過去の病院火災では、スプリンクラーが作動し大事に至らなかったケースもある。専門家は「スプリンクラーのあるなしが生死を分けるほど、初期消火で果たす役割は大きい」と指摘する。

 福岡市内のある病院で2011年6月夜、非常警報が鳴った。ナースステーションのモニターに2階東側の病棟で出火の表示が出た。夜勤の男性准看護師(33)は「また誤作動か」と思いつつも病室へ走った。すると、消灯したはずの病室のガラス窓が赤い。「本物の火事だ」。気が動転した。

 ドアを開けると、4人部屋のベッドの一つから50センチほどの高さまで炎が上がっていた。まずは急いで患者2人を起こして廊下に避難させた。シャワーの何倍もの水圧で、スプリンクラーから水が降り注ぐ。びしょぬれになりながら毛布をかぶせたが、火は消えない。ナースステーションに走って同僚に消防への通報を頼み、病室に戻ると、いつの間にか火は消えていた。「スプリンクラーの威力にびっくりした」

 火災の原因は、入院患者のたばこの火の不始末だった。准看護師は「消火器を探すことにも思い至らず、パニック状態だった。スプリンクラーがなければ大惨事になっただろう」と振り返る。

 今年8月には、落雷で出火した北九州市の介護老人保健施設でスプリンクラーが作動し、火が小さなうちに消し止めた事例もある。

 スプリンクラーには、初期段階での消火と、火の広がりを抑えるだけでなく、煙の上昇を遅くする効果もある。今回亡くなった10人の死因はいずれも一酸化炭素中毒だったが、スプリンクラーがあれば避難時間を稼げた可能性がある。消防庁は「設置すれば、死亡者が出る割合が6分の1に減る」とのデータを示す。

 しかし、安部整形外科のような6千平方メートル未満の有床診療所には消防法上、設置義務はない。こうした診療所は全国に約9千あるが、あるメーカーの担当者はこう断言した。「診療所からスプリンクラーの注文を受けたことは一度もない」

 ◆コスト高、医療機器水損も

 初期消火に絶大な力を発揮するスプリンクラーだが、多くの有床診療所が設置に踏み切れない背景には、資金不足に加え医療機器が水損して使えなくなる懸念がある。

 消防法では(1)19床以下で6千平方メートル未満(2)20床以上で3千平方メートル未満-の医療機関には設置義務がなく、有床診療所は(1)に該当する。全国有床診療所連絡協議会の幹部は「自主的に設置している有床診療所は聞いたことがない」と語る。

 厚生労働省の調査によると、スプリンクラーの見積額の平均は1平方メートル当たり約2万3千円。500平方メートルの医院なら約1150万円になる。老朽化した施設は重さに耐えるよう天井を改装する必要も生じる。福岡県内のある医院長は「とても払えない」と明かす。

 誤作動やぼや程度の火でスプリンクラーが作動し、高額な医療機器が水をかぶると使えなくなる恐れもある。さらに、医療機器の水損に備えて火災保険とは別に医療機関の家財保険に当たる「設備什器(じゅうき)等保険」への加入も必要だ。県内の火災保険代理店によると、安部整形外科と同規模の施設なら補償額は1億円を超えるとみられ、「新たに年約35万円の保険料負担が生じる」と試算する。

 危機管理アドバイザーの尾下義男さん(65)=茨城県守谷市=は「費用はかかるが、スプリンクラーは命を守るために必要。国は予算をつけて普及を進めることも検討すべきだ」と指摘する。

   ◇   ◇

 安部整形外科の火災の死亡者は70~89歳で、10人全員が高齢者だった。高齢者をはじめとする災害弱者の命を守るため、何をすべきか考える。

=2013/10/18付 西日本新聞朝刊=

PR

PR

注目のテーマ