(3)1人で患者守れるのか 夜間当直ルポ

歩行器を使う高齢者のトイレには、看護師が必ず付き添い、転倒事故などを防ぐ 拡大

歩行器を使う高齢者のトイレには、看護師が必ず付き添い、転倒事故などを防ぐ

 福岡市博多区の安部整形外科の火災は、当直看護師が1人きりの未明に起きた。ベッド数19以下の有床診療所に夜間当直の看護師を置く義務はないが、それなくして「静かな夜」を送れない高齢の患者は増えるばかりだ。認知症、寝たきり、独り暮らし…。当直看護師の仕事を通して有床診療所の実像を取材した。

 17日午後10時。既に病室8室の明かりは消えていた。福岡市中央区笹丘の松本整形外科(3階建て)。看護師長の橋本里子さん(45)は、1人で夜間当直する准看護師の甲斐真澄さん(23)と引き継ぎを始めた。

 「3号室の患者さんは便が出てないみたい。緑内障もあるので夜のトイレ介助は気を付けて」。入院患者12人は、すべて65歳以上。甲斐さんは「当直はいつも不安。もしものとき、1人で患者さんたちを守れるのか」と、心細そうに打ち明けた。

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 現実は時を待たない。

 ブー、ブー。甲斐さんが当直に入って5分後、ナースコールが鳴った。

 小走りである個室へ。女性患者(85)は「用を足したい」と訴えた。腰が悪く、トイレまで歩けない。病室に置いてある簡易トイレに座るのを甲斐さんが手伝った。テレビ台には、裏返しになったカレンダーが掛けてあった。

 「眠れない。お薬ちょうだい」「漏れてしもうた。下着の替えを」。呼び出しのたび、甲斐さんは病室に向かう。「朝はパンにジャムを付けて食べるのが好き。あなたも好き?」。たわいもない会話は30分続いた。

 患者たちが寝静まったのは、日付が変わって18日午前1時半すぎ。この間、コールは6回。来年、正看護師の試験を受ける甲斐さんは、分厚い問題集と格闘し始めた。

 ナースステーションには病棟の見取り図がある。安部整形外科の火災翌日、看護師長の橋本さんが張り出したものだ。8枚の防火扉、6カ所ある非常口の誘導灯、5本の消火器の位置。昼も夜も看護師10人の目には、その見取り図が飛び込んでくる。

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 有床診療所では、こんな理由で入院を求められるケースもある。

 「マンションでエレベーターの工事が始まり、7階の部屋まで階段で往復するしかなくなった。でもそれはきつい…」

 福岡県内のある有床診療所。通院歴がある80代の女性に頼まれた院長は重症ではないと分かっていながら「変形性ひざ関節症」とカルテに書き、入院を認めた。後ろめたさを感じないわけではないが、だからといって独り暮らしの高齢女性を突き放すこともできない。

 19日午前3時、この女性は2階の病室で寝息を立てていた。工事が終われば、退院する手はずになっているという。

 夜が明けた。朝食の配膳、体温測定、おむつの交換、声掛け…。有床診療所に慌ただしい「日常」が戻った。さまざまな課題を抱えたまま、時だけが過ぎていく。

=2013/10/20付 西日本新聞朝刊=

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