(2)有床診療「もう無理」 「町医者の使命感だけでは」

入院の受け入れをやめた病室には、看護師の制服が干されていた=18日午後、福岡市内 拡大

入院の受け入れをやめた病室には、看護師の制服が干されていた=18日午後、福岡市内

全国有床診療所連絡協理事八田喜弘さん

 夜間に火災が起きたらどう人的被害を防げばいいのか-。高齢者10人が死亡した福岡市博多区の安部整形外科の火災を受け、入院機能を持つ有床診療所に苦悩が広がっている。長年、「町医者」の誇りを胸に地域の高齢者医療を担ってきたが、慢性的な看護師不足の中、防火態勢の強化が求められた場合の負担を危惧して、入院の廃止を検討する医院も出てきた。

 福岡県南部の外科医院は火災直後から、13人いた入院患者の退院や転院手続きに入った。役所や家族と相談して今月末までに、全員を帰宅させるか介護施設やほかの病院に転院させる予定だ。

 患者は身寄りがなかったり、脳梗塞で身体にまひがあったり、自宅で生活を営むのが困難な人が多い。末期がんの患者には、この医院が「最後のよりどころ」だった。

 院長は、ベッドをいったん空にして、当直態勢など夜間の火災への備えを検証する。その上で「患者の命に責任が持てない」と判断すれば、無床の診療所にするという。診療報酬が上がる見込みがないのに、防災態勢の強化など負担ばかり求められてもつらい。「(患者や地域には)心苦しいが、今回の火災が本当にショックで…」と声を詰まらせた。

 安部整形外科のように有床診療所は親から子へと受け継がれる場合が多い。大分県のある循環器内科医院の院長も、父の跡を継いだ。息子も医師だ。「地域に必要な存在と信じて代々頑張ってきたが、今回の火災で心が折れそうになる。『有床』は私の代で終わりかも」と漏らす。

 8年前に無床にした福岡市の内科クリニックは当時、10人いた入院患者のうち7人が寝たきりだった。施設内に住む50代の院長と家族、当直の看護師らで、非常時には7人で対応する態勢を取ることも考えた。だが、寝たきりの1人を運び出すだけで複数の人手が必要だ。「火事があれば全員を避難させるのは無理」との結論に至った。院長は「もしあのまま入院を続けていたら、安部整形外科と同じことがうちでも起こり得た」と語る。

 同じく7年前に有床をやめた福岡県大川市の松田知愛(ともよし)医師(56)はこう指摘する。「町医者の使命感だけでは、世の中が許してくれなくなった。その結果、患者にとって最後のとりでがなくなっていくだろう」

 ◆高齢者の受け皿なくなる

 有床診療所の防火対策や課題について、全国有床診療所連絡協議会広報担当理事の八田喜弘さん(74)=福岡市早良区、八田内科医院院長=に聞いた。

 -今回の火災を受けての対応は。

 「防火扉の点検や夜間避難訓練の必要性が浮き彫りになったので、今月中に会員の有床診療所3259施設を対象に緊急アンケートを行う。スプリンクラーの有無や消火・避難訓練の回数など、まずは防火態勢の実態を把握したい」

 -火災以降、無床化を検討する医院もあるが。

 「経営が厳しい中で防火設備の更新が必要になれば、後継者のいない医院の無床化が加速する恐れがある」

 -だが、有床診療所は自立生活が困難な高齢者の受け皿でもある。

 「1人暮らしの高齢者が体調を崩して生活できないとき。介護施設に空きがないとき。有床診療所は医療と介護のはざまで置き去りにされた弱者を入院という形で受け入れてきた。なくなれば、地域医療に穴があく。広く存在意義を理解してもらい、存続できる仕組みの構築を国に訴えたい」

=2013/10/19付 西日本新聞朝刊=

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