(6)防火優先 患者漂う 院長、苦渋の退院要請

火災の翌日の安部整形外科の内部。1階部分は、真っ黒に焼け焦げていた=12日、福岡市博多区住吉 拡大

火災の翌日の安部整形外科の内部。1階部分は、真っ黒に焼け焦げていた=12日、福岡市博多区住吉

 高齢者10人の命が奪われた福岡市博多区の安部整形外科の火災を受け、ベッド数19以下の有床診療所に入院廃止を検討する動きが出てきた。だが、診療所の入院患者には行き場のない人も多い。入院患者の退院を進めている福岡県内のある医院を取材した。

 22日の昼下がり。病室からテレビの音が廊下に漏れ聞こえる。中に入ると、90歳を過ぎた男性がパジャマ姿でベッドに腰掛けていた。「困ったもんだ。年は取るもんじゃない」。突然決まった退院に心を痛めていた。

 院長は10年来のかかりつけ医で、検査でがんを見つけてくれた恩人だ。中核病院で腸閉塞(へいそく)の手術を受け、ここに転院。2年半近くたつが不自由もなく「ずっとお世話になる」つもりだった。あの火災が起こるまでは-。

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 「この医院であんな火災があったら、患者を守れるのか」。安部整形外科の火災の後、院長は苦悩した。築40年超の建物にはスプリンクラーも、自動で閉まる防火扉もない。有床診療所に防火対策の強化が義務づけられれば、入院患者の受け入れは困難になるだろう。「補助金でも下りない限り、施設を整備する経済的余裕はない」

 入院をやめて外来だけにするか、まだ結論は出していない。だが、寝たきりも含めて13人の入院患者の安全を考えて、いったん退院を促し自宅や他の病院や施設に移ってもらうことを決めた。

 足を患う40代の男性患者は「先生の気持ちは分かった」と、月末に自宅に戻ることにした。ただ、医院から遠いため、通院が可能なアパートを医院近くで探すつもりだ。

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 90代の男性も退院の打診を受け入れた。近くにある自宅には住まず、月末にも30キロほど離れた場所に住む子どもの家に身を寄せる。これで友人の見舞いは途絶えるだろう。「本当はここが一番」だが、仕方ない。

 院長は「ご自宅に住めば往診しますよ」と提案してくれたが、弱った足では家事は無理だ。妻も既に旅立った。介護保険サービスの利用も、月15万円の年金では心もとなかった。

 「ただ、子ども夫婦にも長く迷惑は掛けられない」。いずれ高齢者施設へ、と思うが、「ついのすみか」は定まらない。

 「(行政の)防火対策強化は分かる。でも、行く先のない患者はどうなるのか」。やるせなさを募らせ、やせた体を横たえた。

 ◆消防隊員証言

 入院患者ら10人が犠牲となった福岡市博多区の安部整形外科の火災で、市消防局は22日、現場で活動した4人の消防隊員の証言を文書で公表した。消防隊の到着当時から建物内は黒煙が充満して視界は1メートルに満たず、多数の入院患者が倒れている壮絶な現場だった。

 博多消防署堅粕特別救助隊の30代の男性小隊長が、火災が起きた11日の午前2時28分に現場に到着すると、黒煙が窓から噴き出していた。2階の窓から男性が煙にむせながら「助けて…」と懸命に叫んでいた。はしごを使って救出すると、男性は「まだ何人も逃げ遅れた人がいます」と話した。

 2階の窓から建物に入ると、黒煙が充満して1メートル先がやっと見える状態。病室のベッドには入院患者が動けなくなっていた。目の前にいる患者を確認することも容易ではないほど黒煙は濃かった。

 別の隊員が亡くなった安部龍秀前院長(80)夫妻が住んでいた3階に入ると、真っ暗で煙が残っていた。ほどなく前院長夫妻が倒れているのが見つかった。4階では女性が携帯電話のライトを窓にかざし助けを求めており、隊員がはしごで救出した。

 鎮火後、消防隊員が現場を見渡すと、1階は「すべてを焼き尽くしたような状態」。一方、2階は天井や壁がすすで黒くなっていたが、ほとんど燃えては
いなかった。10人全員の死因は一酸化炭素中毒で、煙の危険性を浮き彫りにした。 

=2013/10/23付 西日本新聞朝刊=

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