携帯デビュー20年記 ”猫の額”の98年、”黒船”に無反応の08年、そして2018年の先は

 かつては「オトナの証し」とも言えた携帯電話を手にして、今年20年を迎えた。中高生が気軽に手にする今とは異なる20世紀末の話。大学3年生だった。

◆1998年◆

 携帯電話の前は、ポケットベルを使っていた。PHSが登場して、友人は次々と乗り換えた。当時、学生の間では携帯電話に比べてアンテナがカバーできる範囲が比較的狭いが、料金が安価なPHSが好まれた。私は「どうせなら、高機能な方がいい」と、PHSをこらえ、お金をためて「携帯電話」を買った。

 アラフォーの同世代の方々にしかお分かりいただけないかもしれないが、言わずと知れた名作「ドラゴンクエストⅠ」で、最初の武器に最安値の「たけざお(10ゴールド)」を選び、我慢して資金をため、「こんぼう(60G)」を飛び越えて一気に「どうのつるぎ(180G)」にステップアップする――そんな感じだ。

 そうして1998年に手に入れた「どうのつるぎ」が、京セラ製のツーカー(現au)「TH171」だった。引っ張って伸ばすアンテナ、ブルーに光る液晶に示される番号に心が躍った。auが往年の機種を紹介する「ケータイ図鑑」によると<余裕の約4分10秒多彩な録音が可能なボイスレコーダー機能>を搭載し、<バイブレータ機能>を内蔵、<運転中を知らせるドライブモード>が売りだった。

 TH171以降、所有した歴代の端末を、なんとなく捨てられずにいくつか自宅に保管している。西日本新聞に入社後、会社から支給された歴代の端末も、同様に取ってある。時系列に並べてみると、猫の額ほどだった画面は少しずつ大きくなり、折りたたみのスタイルに代わり――、その姿と形はバラエティに富み、ケータイの進化を追体験できる。

 懐かしいなあ、と楽しみつつ、厳しいなあ、とも思わされた。直近三つの端末は同じ形。全部iPhoneだ。

◆2008年◆

 <店員も「行列は2007年の(パソコン基本ソフトの)ウィンドウズ・ビスタ発売以来です」と喜んでいた>

 2008年7月11日付の西日本新聞夕刊社会面。「ハラ(腹)」と呼ばれる紙面の真ん中を飾っていたのはiPhone日本販売開始の記事だった。<iPhone旋風上陸>の見出しに続く記事にあったベスト電器福岡本店の店員のコメントが、冒頭のものだ。

 おそらく10年前の夏、私はあまり関心を持たずに、長年使っていたパナソニック製のドコモ「P213i (prosolid)」の折りたたみをパタパタしながら、その紙面を見ていたと思う。テレビでは、メーカー各社が新製品を次々とCMでアピールしていた。


 iPhone日本上陸の記事には、こんな記述もある。

 <人気端末の日本初上陸で、携帯商戦が活気づきそうだ>

 だが、待っていたのは、活気づくどころか、想像を超えた“黒船”の破壊力が国内メーカーを次々と淘汰(とうた)していく未来だった。

 この少し前の08年3月、三菱電機が国内市場の飽和状態を理由に携帯電話事業から撤退した。だがスマホは新たな需要を喚起しながら爆発的に浸透。本紙のスマホに関する表現も、「多機能携帯端末(スマートフォン)」→「スマートフォン(多機能携帯電話)」→「スマートフォン(スマホ)」と数年で変わった。今では「スマホ」だけの表記すらある。

 その傍ら、日本メーカーの携帯電話は世界で通用しない「ガラケー」とやゆされるようになり、12年には東芝が、13年にはNECとパナソニックがそれぞれ事業から撤退した。

 調査会社のIDCジャパンのデータが、業界地図の変化を数字で如実に示している。iPhone上陸前の2004年、携帯電話シェアは国内メーカーがしのぎを削っていたが、その後市場を握ったのは「商戦を活気づけそう」と迎えられたアップルだった。(下の図参照)

 IDCジャパンの菅原啓アナリストは、こう指摘する。「スマートフォン時代に入り、市場は事実上アップル1強となっている。2017年は2004年に比べ市場が大きく縮小しており、海外での市場シェアが非常に小さい日系ベンダーは、スケールメリットの観点からも厳しい戦いを強いられている」

 私も少し遅れて2012年にiPhoneに機種変更。その後、西日本新聞編集局でも記者たちにiPhoneが支給された。

◆2018年◆

 iPhoneの日本上陸から10年を迎える今年、富士通も1月に携帯電話事業の売却を正式発表した。現在、端末を製造する国内メーカーはソニー、京セラ、シャープだけだ。

 デビューから20年、世相に流れ流されて2台のiPhoneを持つに至っている私だが、私用の端末はしばらくiPhoneを続けそうだ。


 会社支給のiPhoneには、新人時代に支給されたパナソニック製のドコモ「P209is」から代々引き継がれた私の電話番号とアドレス帳が残っている。だがそれも、SNSでのやりとりが増えた最近は、かなり出番が減った。

 iPhoneについての個人的な悩みは一つだけ。メモを取りながら通話しようと頭と首で挟むと、端末が薄いために首を痛いほど曲げなければならない点だ(イヤホンマイクを使えばいい話だが)。

 試しに20年前のTH171を挟んでみると、端末の分厚さが手伝い、実に使いやすい。なるほどTH171は通話に特化した「携帯電話」、そしてiPhoneは文字通り「多機能端末」なのだと再認識させられる。

 そのスマホは進化をほぼ終えたとも言われている。まもなく、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)の技術を取り入れた「次の形」が生まれるかもしれない。10年後の2028年、私はどんな端末を手にしているだろうか。

 いや、そもそもそれは「持ち物」なのだろうか。

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