【人の縁の物語】<40>悔いなく生きる道しるべ エンディングノート 若い世代にも

エンディングノートを書いて「人に支えられているな」と実感でき、より感謝するようになったという田村恵美子さん 拡大

エンディングノートを書いて「人に支えられているな」と実感でき、より感謝するようになったという田村恵美子さん

 明日が来るのは当たり前ではない-。突然、多くの命を奪った東日本大震災の影響で「死」を身近に感じる人が増えたといわれる。その一つの現れだろうか。葬儀の希望や最期の迎え方、自分史をまとめる「エンディングノート」が若い世代にも広がりつつある。実際に「死」を見据えて書き込んだ30代の2人に思いを聞いた。

 「人生でうれしかったことは?」というエンディングノートの問いに、頭を悩ませた。しばらく思いを巡らせて浮かんできたのは、6年ほど前に亡くなった祖母の温かい手だった。

 北九州市に住む社会福祉士の渡部文華さん(31)は幼いころ、祖母が試験の好成績を喜び、頭をなでてくれたエピソードを書いた。「何げない日常の一コマだけど、いつも応援してくれた祖母らしい思い出なんです」。愛情に包まれた体験として心に刻まれている。

 仕事で高齢者に接する機会も多く、実家はお寺。死は生の延長上にある身近なものだと感じてきた。以前から関心があり、9月に開かれた勉強会に参加してみた。

 書いたことで、劇的に何かが変わったわけではない。ただ、平凡な日々にこそ、喜びや幸せがあるのだと気づかされた。仕事もより一層、丁寧に取り組むようになった。「一日一日、後悔がないように生きていきたい」。歩みを振り返ることで道しるべが見えてきた。

 家系図を書く欄には、祖父母の代までしか記入できなかった。近いうちに家族に尋ね、もっとさかのぼるつもりだ。「命のリレーがなかったら、生まれていないんですよね」。命の重さをかみしめる。いつか結婚して、子どもを産みたいという思いも強くなった。

 福岡市で暮らす葬祭会社の役員、田村恵美子さん(38)は1年ほど前にエンディングノートをしたためた。葬儀に立ち会う中で「いつ、万が一のことがあるか分からない」と実感してきた。一方で、どこかに「自分は大丈夫なんじゃないか」という思いもあった。

 長男(3)と次男(1)の出産を経て変わった。「自分のためだけの人生から、子を育てる責任のある人生になりました」。もしもに備えて、思いを形にして残したいと考えるようになった。

 昼寝をしている子どもの寝顔を眺めながら書いた。一番伝えたい言葉は「喜怒哀楽」。うれしいときは思いきり喜び、悲しみやつらさとも逃げずに向き合う-というのが自身のモットーだ。

 学生時代の出来事をまとめていると、恩師や友人の顔が次々と浮かんできた。バレーボールに打ち込んだ日々から、忘れかけていたチームワークの大切さも思い出した。

 子育てで大忙しの中、自分の感情とじっくり向き合えた貴重な時間だった。「大事な人がたくさんいて、愛情に囲まれていますね」。書き終わると満ち足りた気持ちになった。

 これからは節目ごとに自分を見つめ直し、変化があれば書き込んでいこうと思っている。絆や思いが詰まったエンディングノートは人生の歩みそのものだから。

=2013/11/05付 西日本新聞朝刊=

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