福岡・天神で劇場再開 吉本興業のファン拡⼤戦略とは

木村 貴之

 福岡市・天神のファッションビル「天神ビブレ」8階の「ビブレホール」が9⽉、吉本興業福岡事務所(福岡吉本)の常設劇場「よしもと天神ビブレホール」として⽣まれ変わる。吉本興業の常設劇場は全国13館⽬で、福岡市では「吉本ゴールデン劇場」が2004年3⽉に閉館して以来、14年半ぶりの再開。九州最⼤の繁華街・天神で復活する“よしもと劇場”はどんな空間になるのか。吉本興業の記者会⾒で関係者が発した⾁声を振り返り、探ってみる。

 吉本興業の泉正隆常務(福岡吉本トップ兼務)「芸⼈たちがしのぎを削る空間。博多華丸・⼤吉やパンクブーブーら⼈気者の誕⽣は劇場があったからこそ。いろんなイベントを企画し、福岡で愛され、全国で活躍する芸⼈を育て、元気な福岡をさらに元気づけたい」

 天神ビブレの浅井直樹館⻑「天神ビブレはファッションを中⼼に若者⽂化を40年近く 発信し、若い世代と向き合ってきた。ここ数年、天神でもお笑いの熱が⾼まっている。吉本興業さんと協⼒し、福岡の街を盛り上げたい。この⽇を迎えることができて光栄だ」

 吉本側は地元芸⼈たちの活動拠点や育成の場として、ビブレ側は若者に向けたコンテンツの発信基地して、ともにニーズが合った構図。さらに浅井館⻑は「私は関⻄出⾝。吉本新喜劇を⾒て育った」と告⽩しており、受け⼊れ側のお笑い好きも後押ししたようだ。

 ホールの概要や運営⽅針などを説明したのは、劇場⽀配⼈に就任する福岡吉本の秋定朋宏さん。29歳の若⼿ながら福岡吉本の広報や、今春開校した新⼈タレント養成所「吉本総合芸能学院(通称・NSC)福岡」の校⻑も務めている。秋定さんの説明によると―。

 〈内装〉壁⼀⾯に「野⽣爆弾・くっきー」「鉄拳」など絵⼼のある⼈気芸⼈が絵を描き、劇場のシンボルに。DIYが得意な福岡吉本の⾼⽥課⻑のプロデュースで改装も検討。

 〈設備〉⾳響や照明は引き継ぎ、テレビ撮影やインターネット配信対応の設備を導⼊。

 〈雇⽤〉⾳響、照明、受付、映像制作、イベント進⾏の各スタッフ、構成作家を募集中。

 〈公演〉東京や⼤阪の⼈気芸⼈も交えたお笑いライブを随時開催。9⽉1〜3⽇はこけら落とし公演(全9公演、末尾に付録)を開く。中⾼⽣もお⼩遣いで楽しめるワンコインライブ(参加料500円)、吉本新喜劇の九州版「九州新喜劇」のミニ公演、天神地区で往来が盛んなインバウンド(訪⽇外国⼈客)向けにノンバーバル(⾔葉以外の⼿段を⽤いるコミュニケーション)のイベントなども企画。おおむね⽉70〜80公演を⾒込む。

 〈教室〉NSC福岡の教室としても活⽤。⼟⽇祝⽇の受講後、先輩の舞台を⾒ て学ぶ。

 〈その他〉⼥性シニア層をターゲットにした美容や健康、趣味のワークショップや、コンピューターゲームの腕前を競う「eスポーツ」など、多彩なイベントも積極展開する。

 秋定さんは「お笑いだけでなく、いろいろなコンテンツを発信する。⽬指すのは全く新しい吉本劇場。福岡の皆さんと、皆さんに愛される劇場をつくる」。何となく「何でもあり」の気もするが、⾏間ににじむのは、福岡でのファン拡⼤に向けた吉本興業の決意。若者⽂化の発信し続けた空間に幅広い世代、インバウンドまでも呼び込む戦略が透ける。

 会⾒には福岡吉本の芸⼈らも駆け付けた。

 寿⼀実(最年⻑芸⼈、九州新喜劇座⻑)「劇場があれば芸⼈はテンションが上がる。100回の稽古より1回の舞台。次々に⽻ばたく若⼿を⾒守りたい」(『天国から? あなたも出演するんです』とツッコミが⼊る)

 コンバット満(博多華丸・⼤吉の同期)「テレビの公開⽣放送もできる。スポーツイベントも。野球やサッカーのシーズンオフに選⼿を呼んで。いろいろできそう」

 松下笑⼀(福岡県出⾝の『⾵船芸⼈ 』)「バルーンアートの世界で実績を積んだ。インバーバル…いや、ノンバーバルのパフォーマンスで福岡のインバウンドをもてなす」

 マサル(ピン芸⼈)「若⼿を募って芝居やコントを中⼼に活動したい」

 メタルラック(漫才コンビ) 「福岡吉本のアイドルとして、⼥のコの⻩⾊い歓声を誘う劇場に。週5回の居酒屋アルバイトを⼀⽇も早く辞められるよう頑張りたい」

 服部さやか(タレント)「eスポ ーツは福岡で確実に盛り上がる。ここに⼤画⾯を置いて、みんなで観戦やプレイができるイベントを。イベントではMCに挑戦してみたい」

 ぽんこつラーメン(NSC福岡1期⽣の漫才コンビ)「諸先輩と同じ舞台でしっかり頑張りたい」

 サカイスト (漫才コンビ。会⾒の進⾏役)「東京から福岡に移籍して半年余。常設は東京や⼤阪で経験したが、福岡にもできるのはうれしい。福岡を漫才で盛り上げたい」―。

 

 ここで腕を磨き、夢を膨らませる地元芸⼈たち。そんな彼らに⽔を差すわけではないが、気になる課題が⼀つ。天神ビブレが⽴地するのは、2024年までに⺠間ビル建て替えなどで⼤規模再開発を促す「天神ビッグバン」の事業エリア中⼼部。現時点でビブレも⾜並みをそろえるのか不明だが、裏を返せばホールがいつまで存続できるかも不明なのだ。

 

 会⾒で報道陣の質問に浅井館⻑は「今のところ何も決まっておらず、話せることは何もない。ビルがある限り(劇場は)続けてほしい」。会⾒前、記者の取材に吉本興業も「状況が変わればその時に考える」。⻭切れの悪さは無理もない。再開発は地権者やテナント交渉も絡むデリケートな地域課題。⾒守るしかない。ただ、天神を舞台にした吉本劇場の復活に地域活性化の期待は膨らむ。空間がある限り、笑いが絶えないことを願う。(⼀部敬称略)

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