【3年3組 歌声の物語 追跡 合唱コンクール】<上>集団づくりへの階段

3年3組の合唱指導に当たる今井教諭(右)。身ぶり手ぶりを交え、生徒たちの感情表現を引き出そうと、声も大きくなる 拡大

3年3組の合唱指導に当たる今井教諭(右)。身ぶり手ぶりを交え、生徒たちの感情表現を引き出そうと、声も大きくなる

 ■道徳教育を考える■ 
 学芸会のようなものだろうと、高をくくっていたら、そうではなかった。各地の中学校で10月に開催された校内合唱コンクール。クラスの歌声を立ち上げていく道程は、生徒たちが自我を見つめ、集団づくりにつなげていく、道徳の実践授業でもあるようだ。福岡市の街中にある東住吉中学校。3年3組29人の歌声の軌跡を追った。

 「最近、泣いたことのある人?」(男女2、3人が小さく挙手)

 「ほら男子、女子の涙をそっと見守ったことがあるよね。どう慰めていいか分からないような」

 「……」

 中間テストが終わり、合唱練習は本格化した。3年3組の生徒たちは、担任の今井としえ教諭(35)から音楽の授業で指導を受けていた。大半が歌詞を覚えていたが、3パートの歌声はまだ響き合わない。

 「うれしいけど笑わない、悲しいけど泣かない。3年生にもなると、喜怒哀楽を内に秘めるようになりますからね」と今井教諭。「サン、ニー、ハイッ」。両手で抱き締めたり、大きく解き放つような身ぶりを交え、歌詞の意味を問い掛けながらの指導が続いた。

 コンクールでは学年共通の課題曲と自由選択の2曲を歌う。1学期末、生徒たちは候補10曲から〈あなたへ〉を投票で決めた。卒業式でもよく歌われる曲だ。

 夏休みの宿題で、生徒たちは歌詞を題材に絵を描いてきた。その一部が階段廊下に掲示されている。

 天空から希望が舞い降りる心象風景、時計を両手でくるんでいる絵がある。その一方、ハートが泣いている。小鳥の群れの中で、数羽のグループが背を向け、ぽつんと1羽いる群像も。

 思春期の無垢(むく)と混沌(こんとん)が入り混じっている。

 2学期が始まると、国が作成した道徳の副教材「心のノート」を使って授業をした。テーマは「一人一人が輝く集団づくり」。

 「100人のオーケストラがいて、1人欠けたらどうなると思う?」

 今井教諭の問い掛けに、生徒からは「変わらない」「バレない」。「じゃあ、ソプラノパートが抜けたら?」「男子パートが抜けたら?」と、たたみかけると「それは困る」。「なぜ?」「土台だから」

 「29分の1」ではなく、「かけがえのない一つの歌声(存在)」の重みを確認することで、生徒たちの朝、昼休み、放課後の自主練習も熱を帯びていく。

 練習が始まると、生徒たちの感情がぶつかる。

 ある女子生徒は、仲良しのパートリーダーから「声が小さい」と注意され、思わず「じゃあ、もっとちゃんと教えてよ」と声を荒げた。女子生徒は翌朝、登校すると「昨日はごめん」。「いいよ」と、ぶっきらぼうに応えた友達が、かばんから取り出した楽譜は、赤鉛筆の書き加えで真っ赤に染まっていたという。

 授業の後片付けをしながら、女子生徒はそんな話を、今井教諭に照れくさそうに打ち明けた。

 女子生徒は〈あなたへ〉1番の歌詞にある「愛と涙」「未来」に胸がキュンとなるという。

 「隣の人がどんなに悲しんでいても、それに気づいてあげる気持ちがなければ、歌詞の意味は分からない。生徒たちの多くは『愛』といえば、男女間のラブを思い浮かべる。でも、好き嫌いを超えたもっと大きな、まだ見ぬ『愛』が、この世の中にはあるんだと、歌い込むことで、気づいてもらいたい」

 今井教諭のそんな思いにも押され、3年3組の歌声は膨らみ始めた。

 〈あなたへ〉2番の歌詞はがらりと曲調を変える。


=2013/11/12付 西日本新聞朝刊=

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