ついに解けました「ビスタポイント」の謎 天神のど真ん中、残したかった“思い”とは

 福岡市・天神のど真ん中、市役所周辺にある「ビスタポイント」について昨年12月、記事を書いた。直径15センチ、ふた状のものに刻まれた福岡市のシルエット、そして指さす手の形――。これは何だろうと尋ね回ったが、詳しいことは分からなかった。

 市役所の西側に一つと、北側に二つあり、南側や東側にはないビスタポイント。さまざまな「なぜ」をはらんだまま年を越し、あきらめかけていたある日、1枚のファクスが届いた。そこには、こう書いてあった。

 「もし関心がおありでしたら、ご説明します」

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 天神でお目にかかったのは、梅本正紀さん(79)=福岡市=。2009年に廃業したコンサルタント会社「環境開発研究所」の九州事務所長を長く務め、都市計画や景観設計などのコンサルタント業務を担ってきた。

 「記事になった『市役所周辺モール』も設計しました」と梅本さん。「モール」とはショッピングモールではなく、「遊歩道」や「散歩道」を指す。ビスタポイントについて「このプレートは、はっきりした意思を持って設置したものです」。そして梅本さんは、こう続けた。

 「当時の私たちの“予想”は、当たってしまいましたね」

 ビスタポイントにまつわる主な疑問点をあらためて挙げる。

▽そもそも、何なのか
▽なぜ、設置したのか
▽デザインの意図は
▽なぜ、市役所の北側と西側にしかないのか

 環境開発研究所九州事務所は、福岡市の委託を受けたコンサル業務をいくつも行ってきた。その一つが、1977年に委託された「福岡市歩行者・自転車交通対策調査」。これが福岡都心部全体の歩行者ネットワークを初めて検討した調査だったという。

 梅本さんたちは、この中で博多区千代町から中央区荒戸に至る現在の明治通りについて計画案を作成した。それに沿って整備された天神・中洲地域の「東西軸トランジットモール」は建設省(当時)の「日本の道100選」にも選ばれている。

 その後、市から86年に受託したのが「福岡都心構想」だった。ここでは、先の明治通りに加え、天神地区の歩行者空間の回遊性を高めるために、域内に「井」の字のように遊歩道を整備する概念図を描いた(写真参考)。そして、その「井」の字の線の交点をイベントなどが開かれる空間「アクティビティコア」と位置付けた。そして89年に受託した別の調査で、市役所から西、現在のきらめき通りに至る通りを「都市景観軸」に設定した。

 この歩行者空間の設計にあたり、環境開発研究所九州事務所は、完成間もない白亜の市役所を都心の“シンボル”とした軸を作ろうと市に提案したという。

 梅本さんはこう説明する。

 「当時『この一帯はいつ再開発されるか分からないけれど、この都心構想のことが忘れられることがあるかもしれない。だから、(この構想が現在の都心空間の出発点になっていることが分かる印を)入れておきましょう』と設置したのが、あのビスタポイントだったのです」

 こうして1992年に完成した福岡市役所を囲む遊歩道「市役所周辺モール」では、シンボルの市役所と「アクティビティコア」を結ぶ景観の軸を意識したビスタポイントが設置された。プレートにある指し示すデザインは、その「景観軸」の方向を示したものだ。ということは、中央区役所に残っていたビスタポイントの図面も…、「そうです。うち(環境開発研究所九州事務所)が作ったものです」と梅本さん。

 ビスタポイントがあるのは西側と北側だけで、南の大丸側にはない。これは工事の順番が理由という。「南側にも設置する予定でしたが、天神地下街駐車場の地上への出庫路の場所を変更する際に、複雑な調整が必要になり工事が遅れました。その後、エルガーラの再開発が進み、パサージュ広場という『アクティビティコア』が実現したので、ビスタポイントを置く必要性がなくなったのです」

 ちなみに「井」の字の遊歩道の左上の交点には、新天町のメルヘン広場という「アクティビティコア」が存在している。

 梅本さんと一緒に現場を再訪した。記事ではビスタポイントから市役所側を撮影した写真を掲載していたが、梅本さんは「本当に見てほしかったのは、反対側の都心景観です」。振り返ると、あのとき「景観主軸」と位置付けられたきらめき通りと、西鉄福岡(天神)駅のターミナルが織りなす街の風景が広がっていた。

 実は梅本さん、今回は私に連絡するのを少しをためらっていたという。

 「当時の福岡市の若手の職員さんたちは、この計画を実現するために本当に頑張っていました。今回、どなたか経緯をご存じの方から新聞社に何らかの連絡が行くだろうと思っていましたが…」。記事にはいくつかの反応があったが、残念ながら「たぶんこうではないか」という推測の話がほとんどだった。

 言うまでもないことだが、都市は歴史の積み重ね。今の天神もそうだ。「天神ビッグバンで、どう街が変わるのか。いずれにしても昔頑張ってきた人たちに思いをはせ、それを受け継ぎながらやってほしいと思います」。梅本さんの言葉に同感だ。

 「後年、誰も覚えていないかもしれないから」――。そうして設置されたビスタポイントは、平成の終わりに、期せずしてその役割を果たしたことになる。

 街は水平、垂直方向にだけではなく、過去にも未来にも広がっている。見過ごされていた直径15センチの小さなプレートから、あらためて考えさせられた。

 

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